特集-ウィンターコンサート2019

脚本で辿る ウィンターコンサート2019【4】

(脚本メニュー 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】

後半

幕が開く

演奏 アイネクライネ・ナハトムジーク
――W.A.モーツァルト
【編成】フルート6名、クラリネット4名、ソプラノサックス3名、
アルトサックス7名、テナーサックス4名、バリトンサックス1名、トランペット8名、トロンボーン7名、
大正琴4名、パーカッション7名、キーボード2名、ベース1名

5割ダウン 楽器を下げる。全部が下げ終わったら、照明を上げる。
照明を戻して、芝居スタート
精霊の衣裳 アカリ下手から

アカリ
もう、嫌だ、いやだ、いやだよ!
もう人間なんて、やりたくない。
人間になんか、なりたくなかったんだよ、私は!
だって、私は精霊なのに、
どうして人間をやることになったんだ!?

 上手のほうまで走っていって、深くうなだれて動かない。
あとから精霊のキョウコが追ってくる

キョウコ
アカリ、待って!
私が、もう人間なんてどうでもいい、ガー、ガー、ガーって、
そうなったとき、止めたのはアカリじゃない。
あの時のアカリはどうしたのよ!!

 遅れてツバサが下手から出てくる。心配そう。

キョウコ
私たちは精霊から人間に生まれ変わって、
しばらくは、自分が精霊であることも忘れ、
自分が果たすべき役割も忘れていたけど、
ほら、この前、確かめたわよね、3人で。
この腕のマークは、人間になっても忘れないようにと、
レオナルド・ダ・ヴィンチが、つけてくれたマーク。
もうダメかもしれない、と私も思うけど、
精霊としての責任だけは、最後まで果たそうよ。
私たち、役割が終わったら、また、すぐ精霊に戻れるのだから。

ツバサ
ね、人間て、ほんとにこんな中で、よく生きてられるわね。
私も、ついさっきまで自分が精霊だと気付かなかったけど、
人間をしていたら、ただ、ただ、苦しかった。

アカリ
そうだよ、人間て、不親切で、不機嫌で、不真面目で……
いや、そんなんじゃない、それだけじゃない、
なんだろ、
人間をやってると、のどに何かがまとわりついてくるような、
息苦しさがある。
なんだかもう、狂い出しそうなんだよ、わたしは。
もう、あきらめようかな……。
人間界はもう、どうなってもいい……。
あきらめようかな、
そんな気持ちでいっぱいになってしまうよ。
レオナルド! レオナルド! レオナルド!
(呼ぶように叫ぶ)

上手からゆっくりと歩いてくるレオナルド

レオナルド
私を、……呼んだかな。

アカリ
どうして私を人間なんかにしたの?!
レオナルド、あなたなら、
もしもあなたが、この人間界に生まれて変わったとしたら、
ここで、真面目に、
くじけないで真剣に生きられるのっ?!
そうそう、地球環境の変化を止めるには、
モラルを取り戻すことが必要だと言っていたけど、
あなたが人間界に降りてきたら、
この堕ち切ってしまった今のモラルを、
あなた1人で直していけるっていうの?!

レオナルド
それは……。

アカリ
ほら、みなさいよ。
そうでしょう。そうでしょう、そうでしょう!!
あなただって、できないに決まってる!!

キョウコ
アカリ、なんてこと言うの?!

アカリ
私、もう嫌だわ。ちょっとの間、大人しくしてたけど、ムリ。
悪いけど、下ろさせてもらう。

(アカリ、上手に足早に去る)

レオナルド
アカリ……

照明5割ダウン。台を出す。
台を出したのを確認したら、みくのキーボードがスタート。
キーボードが入ったら、徐々にビートイットの照明にする(ゆっくり)。

演奏 ビート・イット
――マイケル・ジャクソン
【編成】ボーカル、サブボーカル2名、エレキギター2名、キーボード、ベース、ドラムス、多人数コーラス
ダンス10名

照明5割ダウン。ツバサがイスを出してスタンバイ。
照明を戻して、芝居スタート
場面「センチュリー・アート」の店の中

明石
アカリ……。アカリ……。
(探しているふう)
まいったな……。

ツバサ
明石さん、アカリちゃんですか?

明石
ああ、ツバサ、どうもアカリの姿が見えないんだ。
何か、聞いていないか?

ツバサ
ああ、もしかしたらもう戻らないかもしれません。

明石
戻らない、だって?! そんなこと言ってたのか?!

ツバサ
はっきりとは言いきれませんが、
私の代わりに明石さんをお手伝いするように、と……。

明石
ふう。……それは、残念だ。
なんだか、いつのまにか、本当の娘のような気持ちになっていた……。
ま、かけて。まだ、きみからあまり話しを聞いていなかったね。
少し、話しをしようか。
きみは、何か、大変なことでも、あったのかい。

ツバサ
人間をやるのって、大変です。
私、ずっと勘違いをしていました。
愛情の深い親ほど、子供を殴るものだ、
そんなふうに思って、耐えてきました。

明石
殴るって、ツバサはずっと親に殴られてきたのかい?

ツバサ
世の中の親は、全部、子供を殴るのが普通と思ってきました。
殴らない親がいるなんて、思いませんでした。
高校生までずっと、父から容赦なく殴られたのは、
私が親の期待通りにできなかったから仕方なかった、
そう信じていました。
私はダメな人間だと、ずっと自分を責めてきました。

明石さん、どうして人間は子供を殴るんですか?

明石
どうしてって……。

ツバサ
明石さんも、子供を殴るんですか?

明石
いや、私は殴ったりはしないが……。
でも、私も……。私も失敗をした……。
(ここから、ミラーボールを回さずに光をあてて、台詞)
この地球という惑星に、海があり、山があり、
たくさんの植物が生い茂り、
そして多くの動物、昆虫、魚達が生きている。
これは当たり前のことではなく、
もう天文学的な奇跡の上に成り立っている世界なんだ。
どのくらいの確率かというと、
箱の中に(と30センチくらいの箱を持つ仕草)、
バラバラに分解した腕時計を入れて、
こうして箱を振って、手を使わずに腕時計を組み立てる。

ツバサ
何年振り続けても、腕時計が組み上がることはないですよね。

明石
そう、数千万年も、数億年も、数十億年も降り続けて、
それができるかどうか、という確率だが、
この美しい、命にあふれた地球というのは、
極めて確率の低い偶然がいくつも重なって、やっとできたものなんだ。
だから、こんな大きな地球だが、実は、ほんのちょっとした刺激で、
いまの生態系が大きく壊れてしまうことがあるんだ。
それこそ、植物も動物も住めないくらいに――。
(ミラーボールを消す)
ああ、いやいや、私が言いたいのはそういうことじゃないんだ。
人間が作る、1つひとつの家庭も、
実はそれと同じくらいに繊細で、壊れやすいものだったのだ。
未熟だった私は、家族に向けて、
言ってはいけない言葉をいくつも出してしまった。
私の思いやりのない言葉で、
私の家族は傷つき、みんな私から離れていった。
残念だが、
私も、このモラルのない時代を作っている張本人の1人だよ。
それでツバサちゃんは、どうなんだ?

ツバサ
私は勉強して、勉強して、勉強して、これ以上ないくらい頑張って、
ようやく、医学部に合格したんです。
やっと親の期待通りになった、
もう私は殴られることはない、私も親から愛されるんだ、
と安心した瞬間から、
身体を引き裂かれるような虚しさで、
この世界にはもういられない、と思いました。
生きているのが苦しくて、苦しくて、
私はもう少ししたら人間をやめるつもりでした。
私が人間を生きるには、
この世界は過酷すぎたんです。

明石
そうか……。つらい思いをさせてしまったね。
そうだ、もしよかったら、
君も、しばらくここで過ごしたらいい。

5割ダウン。役者はけ。ダンサー、スタンバイ。
スタンバイしたところで照明。照明がついたら演奏スタート。

演奏 ミリオン・リーズンズ  ――レディ・ガガ
【編成】ボーカル、サブボーカル3名、エレキギター、アコースティックギター、キーボード、ベース、ドラムス
ダンス17名

最後のダンサーが3番を過ぎたら照明を落としていって、暗転
暗転で、最後の晩餐のセットに入る。
同時に、下手6番にスポットを入れて、
そのスポットで明石が台詞を始める。
絵は台詞があるときだけ、フリーズが溶けて自由に動く。

明石
レオナルド・ダ・ヴィンチは、本当に何を考えていたんだろう。
「最後の晩餐(ばんさん)」に、何か、ヒントがあるかもしれない。

「最後の晩餐」というテーマで描かれた絵のほとんどは、
キリストと12人の弟子が、食事をしているだけの構図だが、
ダ・ヴィンチが描いた(かいた)「最後の晩餐」からは、
弟子たちの感情が溢れ出してくる。

(ここで、照明を上げる)
(明石は絵を振り返り、台詞)

明石
最後の晩餐の席で、真ん中にすわったイエスキリストは言った。
「この中に、1人だけ、仏教徒がいる!!」

(絵が動く)

明石
いや、違ったようだ。
最後の晩餐で食べたのは魚の切り身とパンとブドウ酒。
「この中に、1人だけハンバーグが食べたかった者がいる!!」
(絵が動く)
これも違ったようだ。
本当はこう言ったと言われている。
「この中に1人、裏切り者がいる!!」
(絵が元に戻る)

明石
確かに、そんなふうにイエスに言われて、
驚いている弟子たちを描いた(えがいた)と言われているが
本当は、イエスはどう言ったのだろうか。
おい、バルトロマイ! 本当のことを言え!

バルトロマイ
私は、バルトロマイ。(一番下手側)
いやいや、それはそれは驚いたよ。
イエス様が最後の晩餐の席で、いきなりこう言ったんだ。
「人類の文明は、もう少ししたら、モラルが崩れ、滅ぶかもしれない」とね。
なんでもこういうことらしい。
経験したことのない暑さに見舞われ、
経験したことのない大雨と大風に襲われ……
誰だって驚くだろう。
まさか、我々の文明が滅ぶなんて、
イエスの言葉を聞いたときには、心底、驚いたよ。

明石
<なるほど。まず、人間のモラルが崩れる。 そして猛暑、大雨、大風、か……。 マタイ(えりさ)、お前は何と聴いた?/td>

マタイ
(上手から3人目)アイム、マタイ……。
(ここから下と同じ内容を英語でまくしたてる)

明石
マタイ、マタイ、ちょっと待てい。よく聴け!
今日のお客様は日本語が得意な方ばかりだ。日本語で言え!

マタイ
オー、アイム、ソーリー。
私は、マタイ。
いや、私には想像がつくよ。
暑さを逃れて、誰もかれも家の中に引きこもり、
死んだような街には、朝から晩までただの1人も姿が見えない……
モラルの崩壊が、文明の崩壊を招くと、イエスさまはおっしゃったんだ。
豊かになるって、おかしなことがでてくる
世の中は、働いて食べるものを得る人と、
働かなくても食べていける人が出てくる。
誰だって、働かなくても食べていける人になりたいからねえ。
誰が勝つか、誰が負けるか。だれも、負け犬になりたくないんだ。
モラルが低くなるだろうってものだよ。

明石
やはり、モラルの崩壊か……。
確かに今の文明は、人よりもたくさんのエネルギーを使おうとする、
そんな競争かもしれない。
アンデレ(えつこ)、お前はイエスから何を聴いた!?

アンデレ
(下手から3人目) やがてみんな、列をなして暑さから逃れる旅を始める。
暑さのために畑では何の作物もできない、生活もできない。
多くの哀れな難民が、国も人種もなく、国境を守る人もなく、
ただ、ただ、涼しい土地を求めて北へ、あるいは南へと……
この世界のどこがおかしいんだ?
そうそう、もう1つ、大事なことを忘れちゃいけない。
競争の中で傷ついた人たちは、生きる道を見失い、
アルコール依存、薬物依存、ギャンブル依存になり、自滅していく……。

明石
そういうことも関係しているのか。
大(だい)ヤコブ(まみ)、お前はイエスの言葉をどう聴いたんだ?

大ヤコブ
モノが豊かになるってことと、ヒトが幸せになるってことは、違う。
文明の崩壊を止められないのは、
我々、宗教をやっている人間でさえ、
こうして世の中に流されてしまうからなんだ。
人任せにせず、みんなが1人ひとり、自分で気付かなきゃダメなんだ。

明石
宗教も、無力……か。
そして、ユダ(あやこ)、お前は裏切り者だったな。

ユダ
私はユダだ。
いいじゃないか、文明が滅びるったって、
誰かは、何人かは、生き残るかもしれないんだ。大丈夫だよ。
考えてもみろよ、それは、いつの話しなんだよ。
イエス様は、りっぱな預言をなさったけれど、
おれたちが生きているうちじゃないんだろ?
悪いが、俺は悲観論につきあっている暇はない。
そんな悲観的な空想よりも、金稼ぎが先だよ、カネのほうがね。

明石
ユダ、お前のような奴がこの世界のモラルを崩していくんだ!
そうか。わかったぞ。
この中心に描かれている、イエス様の絵は、
人類の未来を予言したレオナルド・ダ・ヴィンチそのものだったんだ!

ブルー暗転。
(それまでギタリストはセンターの中で控えていて、
ケーブルだけ挿して準備。ブルー暗転になってから定位置に着く。)
スタンバイができてから、照明をつけ、それを合図に演奏を始める。

演奏 アストゥリアス
――作曲 イサーク・アルベニス
【編成】アコースティックギター 2名

(パート5へ続く)

【脚本メニュー】
パート1 / パート2 / パート3 / パート4 / パート5 / パート6

←2019年ウィンターコンサート特集 トップへ
←なのはなファミリー トップページへ