第21回『野菊』

「民さんは野菊のような人だ」
政夫は民子を野菊の花になぞらえた。
――伊藤左千夫の『野菊の墓』。
生まれて初めて、
書店の棚から選んだ小説で、
とめどなく涙が流れることを知った。
13歳だった。

あれから半世紀の時が流れ、
身体は老年の域に入ろうとしている。
しかし、ふと、野菊に出会うと、
一瞬で、13歳の僕が胸の中に甦る。
あなたは、民子さんと政夫さんのように、
       今日まで生きてきましたか?
野菊は私に、そう問いかけるのだ。

〈撮影場所:古畑、石の下畑〉
(2019年10月3日)