そうだ、お父さんにきいてみよう!

第219回「苦手なことをする時間を苦痛に感じてしまう」

【質問】
 好きなことをしているとき、時間が速く過ぎるのに、苦手意識があることをしているとき、その時間が苦痛に感じてしまいます。
 私は畑に出ているのが好きで、畑にいる時、すぐ時間がたってしまいますが、苦手な楽器やダンス練習となると始まる前から不安でその時間も苦痛に感じてしまいます。

1.気持ちができている人はもっと色んなことに楽しみを感じていますか。
2.どうしたら苦手なことをしている時間も苦痛に感じずにいられますか。

 自分の答え
 わかりませんでした。

 
 

【お父さんの答え】
お父さん:
 僕は小学校のときに一番キライな授業が、体育だったんです。
 それが、高校のときに、他の授業はサボっても体育の授業だけはかならず出るというふうに変わったんですね。なにかが変わった。それは人生観が変わったんだと思いますね。
 だから、好きなことというのが、変わっていくんですよね。
 どう変わったか。
 こういうことなんです。高校の時の運動会でした。高校くらいになると随分大人に近づいてきて、恥ずかしさが強くなってくる。100メートル競走だか80メートル競走の徒競走があった。そのとき一緒に走ることになった同級生が、
「おいおい、ちょっと、力抜いて、みんな一緒にだいたいで走ろうや」
 つまり、なんとなくまとまって、真剣に走るのやめようや、って言うわけです。誰も勝ち負けなしにしようということ。小学校の時だったら、「そうしよう」って言ったと思いますよ。そのとき、僕が言った言葉。
「嫌だよ。俺は本気で走る。思いっ切り走れお前も!」
 「えーマジかよー」みたいなふうになりましたけど、みんな真剣に走りました。
 そんなふうに人生観が変わったんですね。
 特に速くなったとか、そんなのどっちでもいいんですね。思いっきりやるのが楽しいって変わった。思い切りやったら下手でも遅くてもなんでも楽しい、思い切りやらないと嫌だって人生観が変わった。
 恥ずかしいだとか、見られたくないだとか、負けるのが嫌だとか、そういうのがあると、なあなあで走りたくなっちゃうんですね。それがなくなると、楽しめるんですね。
 ダンスでも、楽器演奏でも、うまくても下手でもいいんですね。思い切りやって、それを見てもらう。

 僕は高校3年の文化祭のとき、アルトサックスで、ジャズの演奏をしたんです。
 ジャズの演奏と言ったって付け焼き刃ですからレパートリーはたった4曲だけです。
 ただ、例外で5曲目があった。5曲目は何か。前衛ジャズです。
 先輩で、前衛のジャズギタリストがいた。その人は、前衛ですから無茶苦茶なことをやる。それで、弓でエレキギターをギュッギュッて弾いたりする。
「一人でやってると馬鹿みたいだからお前と共演しよう。お前もでたらめに吹け」
 僕がアルトサックスで、なんでもいいからでたらめに吹けというんです。思いついたなりでいい、と。楽譜は無いですよ。その先輩が何やるかわからない。ただ、
「出だしだけ俺がやるから、そうしたら、途中からお前が入れ」
 それで、もう滅茶苦茶やったわけですね。汚い音でもきれいな音でもなんでもいいんです。旋律があってもなくても思い切り吹く。汚いときはビュビュビュビュって。これが一番楽しかったですね。それが一番受けましたね。なんだかわからないけど面白い。そういう音でいいんです。なんだかわからないけど思い切りやって、自分が楽しむというね。楽しくやる、そういう気持ちになったら、楽しめるのかなというふうに思うんですね。

 で、ダンスとか楽器も、本当に僕は楽しいと思うんです。だから楽器練習でちゃんと楽譜通りにやったあと、試しに、最後の15分、前衛の演奏をやったらどうでしょうね。
 めちゃめちゃに。楽譜と関係ないから。ブリブリブリ。ピイーーーー! ってね。それを楽しみに、楽譜を吹く。
 それがいいと思うんです。
 今度のステージでやってもいいよね。
 楽器全体の演奏、ちゃんちゃちゃんちゃん……ってやったあと、終わって拍手になったら、いきなり、ブリブリブリバリバリバリ! カンカンカン……しーんっとなって、みんな、何だと思ったらまた、ブリ、ブリ、ブリ、バアッバババ。何なんだ、こいつら狂っちまったのか。そういうのがいいよね。そしたら誰でもソロやれるから。
 お辞儀して去っていく。ソロだから。お辞儀する。バリバリバリ、ピーーー!!!! ってね。リード、ピー! と鳴らしてもいい。それで、すましてお辞儀して。
 要はそういうふうに思えば楽しめるっていうことなんです。気持ち次第なのかなと思うんですけどね。どうでしょうね。

 

お母さん:
 それ、一回、練習してみよう。

 

お父さん:
 決まった定期練習の後、変な音を出して、前衛の音で、演奏する。いいですね。
 でもね、意外に、難しいのよ。
 意外に難しい。それはムチャムチャにピアノ引いてみようと思ってやってみたらわかる。ムチャムチャに弾けないんですよ。前衛のジャズでキーキーやったりガンガンやっても結構、ピアノの鍵盤が強い。バンッてやってもあまり音出ないんだよね。肘で鍵盤を打ち付けたくなっちゃう感じがわかる。音が出ないんですよね。難しい、無茶苦茶やるのも、本当は技術がいりますよ。むちゃくちゃやってるうちに技術が伸びるというのはあると思いますね、本当にね。本当にお母さん、やろうかね。

 

えつこ:
 やりたい!

 

お父さん:
 これだけの人数で前衛でって言って、ぴーーーきゃーってやったら、さ。

 

まゆ:
 なのはなの子、変になったって噂が。

 

お父さん:
 観客が、「初めてだよあんな演奏会」って喜んでくれるかもしれない。

 

お母さん:
 一皮むけるかも。

 

お父さん:
 むけるよ。
 お母さん、1回行ったよね、山口県の変な旅館に。

 

お母さん:
 「西の雅 常盤」っていう旅館があって、そこの女将がね。すごいよ!
 もう70歳以上だよね。

 

お父さん:
 その女将さんがワンマンショーで泊まり客を楽しませてくれる。
 20代後半でそこの女将になってから、1日も休まず土曜も、平日も、毎晩、ショーをやってる。88のレパートリーがあるわけ。もう多彩ですよ!

 

お母さん:
 一回行ってきてみて、河上さん。

 

お父さん:
 早着替えもあるし、水の手品みたいなのからね、若い男の子と女の子と組んでのイリュージョンとか、早着替えでいろんな芸を見せてくれる。

 

お母さん:
 終いにはレオタードで出てくる。

 

お父さん:
 着替えが終わったあとレオタードで出てきてボヨンボヨンの体で、それで踊るわけ、無茶苦茶ですよ。
 琴の演奏もあります。最初は普通に弾いているんだけど、途中からだんだん叩くようになる、パンパンパン、バーンバーンバーン! しまいには棒を持ってきて、その棒で琴を叩き付ける。

 

お母さん:
 棒じゃないんやで、バットやったんやで。

 

お父さん:
 なんなんだこれ! ってもう、度肝を抜かれますよ。正気に見えない。

 

お母さん:
 でもすごい、琴が上手だったんだって。

 

お父さん:
 琴の先生が、「あんたのショー随分評判がいいから見に行くわ」と言って、見に来て、先生の前でバンバン! ってバットで琴を叩く芸を見せたら先生が怒って帰って、二度と来るなって言われた、とか。

 

えつこ:
 琴、壊れないんですか?

 

お父さん:
 ええとね、結構、琴は丈夫かもしれない。
 ただ、演奏途中でブリッジみたいなの全部吹き飛んでいますよ。弦もバラバラに。

 

お母さん:
 それで最後はね、自分の髪の毛、ぱっと取って、墨つけてね、障子にね、書道するの。

 

お父さん:
 そうそう。最初は筆で書いてるんだけど、筆で飽き足りなくて自分の髪の毛でベチャベチャ。「ありがとうございました」って言うのもうね、墨だらけ。

 

お母さん:
 それで、観客がみんなそこの泊り客じゃない? それで「ありがとうございました」って言って、入り口で、握手しないといけない。墨だらけだから。
 「お風呂へ入ってくださいね」って言われて。

 

お父さん:
 実は別の用があってそこに行って、たまたまその旅館に泊まっただけ。ただ、ネットのコメント欄に「女将の芸が、痛い」って書いてあったのね。痛い芸ってなんだろう? とは思ったけど、何も期待していなかった。でも……もう見てて心が痛くなってくる。
 羽根を伸ばそうとして温泉に来た人が、みんな見るわけだ。「今日、何時からショーがありますから見に来てください」と館内放送がかかる。
 僕らも見に行くつもりもなかったけど、たまたま時間があるから見るかって、見たらね、もう本当に、ストレスある人とか、鬱憤ある人が見たら、スッキリするでしょうね。
 最初は和服のきれいな服を着ている女将さんが、だんだんレオタードになっていってこんなふうに踊る。ありえないって思います、有り得ないですよ。有り得ないシーン。
 もうほんとに、痛い。痛いよね。自分の全てをさらけ出して見せるっていう芸ね。
 あの、で、それが見たくて通ってくる人もいるんじゃないですか? ほんとに、ああ、人って何をやってもいいんだなって思わせてもらえるからね。
 多分、琴も最初の頃はちゃんと弾いてたと思うのね。
 だけど、それよりかバットで殴ったり蹴っ飛ばしたりバンバン叩くほうが、いいと思ったんだろうね。

 

お母さん:
 なおとやけいたろうみたいなのがお付きでいて、着替えさせたりとかしてたね。

 

お父さん:
 男の子と女の子が踊ってて、そのお婆さんをぶん投げたりした。アクロバットありイリュージョンありなんだよ。

 

お母さん:
 女将さん、ハア、ハア、言いながら全力なの。

 

お父さん:
 なあ。

 

お母さん:
 そうだよ……まだお元気かなあ。

 

お父さん:
 元気だと思うよ……あの人、土日も無く、ね。

 

お母さん
 普通は土日だけっていう感じじゃない? 

 

お父さん:
 やり始めてから、休んだことがないんだって。

 

お母さん:
 お客さんが5,6人でもやるんだって、同じの。

 

お父さん:
 でもほとんど満員だよ、そこの旅館はね。ほかの旅館を見に行きたいとか、休みたいと思ったことが一度もないと女将さんは言ってた。レパートリーは増える一方でね。

 

お母さん:
 そうそう増える一方と言っていたね。
 ほんとうにもうスターよ。

 

お父さん:
 なんていうかな……。

 

お母さん:
 握手しに行きたくなるもんね。

 

お父さん:
 信じられないよ。理性ある人が理性を手放したときこうなる、っていう見本だね。
 みんなそんなふうでいいんだろう、と思うんですよね。
 よその旅館はどうか知らないけど、その旅館はいつもほぼ満員ですよ。その女将を見たくて来るんじゃないかしらね。
 そんなふうに自分の、何もかもすべてを、例えば運動神経が悪い、自分は音痴で音感が悪い、リズム感が悪い、それでもその悪さを精一杯全てさらけ出して生きていこうと思ってるうちに、何かしらの運動神経とか、何かしらの音感だとか、得意楽器とか、何かしら見つける、あるいは楽しみ方を見つける、そんなふうになるんじゃないかなって思うんですよね。

 僕は高校のときから、破れかぶれが好きになったんだよね。破れかぶれでいいんじゃないのって考えが変わった。破れかぶれになったとたん、自分で自分に何でも許せるし、何をやっても恥ずかしくなくなった。人前で、自分のすべてをさらしながら生きていく、っていうふうに、人生観を変えようよ。

 
  
 
(2019年10月4日 掲載)