特集-ウィンターコンサート2017

脚本で旅する なのはなファミリーウィンターコンサート Part1

2017年12月17日公演
ウィンターコンサート脚本 Ver.12/6(最終版)

開始ベルが鳴る

幕前、下手側に1人の男が出る。
男にスポットライトが当たる。
同時に、会場の灯りを落としていく。

    男が口上を述べる。

口上始まり

「He dose not play dice」
――神はサイコロを振らない――

20世紀が産んだ最高の物理学者、アインシュタインの言葉です。
この世に偶然などはない、すべて理論で説明できる必然だ、という名言。

果たして、そうでしょうか。
いいえ――。僕は、若い頃、神様がサイコロを振る場面を見てしまったんです。

皆さん、何か得体のしれないものの気まぐれで、この世は動いている、
そう思ったことはありませんか?

今日は、ちょっと信じられないような、私の体験をご覧いただきましょう。
――神は、サイコロを振る――

口上ここまで

   幕が開く

演奏 ザ・エクスタシー・オブ・ゴールド 1曲目
 ――エンニオ・モリコーネ 作曲

【編成】ボーカル1名、コーラス1名、サキソフォン10名、ピッコロ1名、フルート4名、クラリネット5名、トランペット7名、トロンボーン8名、大正琴2名、エレキギター1名、ベースギター1名、キーボード2名、パーカッション7名

 演奏終了後、奏者は袖にはける。

 ステージ、やや薄暗く。
 学生服の光太郎が舞台上手から、ここはどこだろう、という感じで出る。
 上手側、前のほうで客席奥を見上げながら、止まる。

 下手から、未来人(女)が必死に何か隠すところを探しながら出てくる。

 そこで、光太郎を見つけ、未来人は、光太郎に走り寄る。

未来人:
すみません、この卵を、どうかお願いします。

 学生服上着のポケットに入るサイズのサイコロを、光太郎に差し出す。

光太郎:
え、卵? お願いしますって……。これ、サイコロ、ですよね。

未来人:
いえ、これは日本人の卵なんです。

光太郎:
日本人の? たまご? ですか?……。

 下手からえりこ、おずおずと出てくる。ここがどこか分からない様子。
 光太郎たちに気付いて、舞台下手で2人を見ながら、立ち止まる。
 しばらくそうしたあと、2人から目を離さないまま、
 光太郎たちの後ろを通って、光太郎の上手側からそっと伺う。

光太郎:
ちょっと、何がなんだか、わからなくて、混乱しているんですが、
一体、ここはどこですか?

未来人:
ここは日本人を養殖するための人間牧場です。

光太郎:
人間牧場?……

未来人:
日本人は、絶滅危惧種なので、ここで強制的に繁殖させられているのです。
ほら、あれを見て。高圧電流の電気柵でね、あそこより外には出られない。
男女の組み合わせも強制的に決められて、安全のため卵で育てられるんです。
今では、地球上に生存している日本人は、全部で75人。

光太郎:
日本人が、たった75人になってしまったんですか?!

未来人:
そうです。私達は、日本人の子孫を作るために飼われているんです。
私達からとった受精卵を卵の形に進化させて、卵から子供を作るんです。

光太郎:
さっきからタマゴ、タマゴって、これサイコロですよね。

未来人:
そう、不良品ができてしまったのです。
普通のタマゴは、丸いのですが、
このタマゴ、まるでサイコロのように四角くなってしまいました。
母親も管理人も処分するといっているので、なんとか助けたいのです。
人間ですから、不良品とか、そうでないとか、言っていいはずがありません。
だから、このタマゴをここから持ち出して……
(未来人がえりこに気が付いて、えりこのほうを向いて)
よかった、奥さんもいてくれて。あなた方に、この子を託したいのです。

えりこ:
え、奥さん、って……。 無理です。
だって、私達、知り合いでもないですし……。預かるなんて無理です。

未来人:
(えりこのセリフを無視して、強引に光太郎にタマゴを渡す)

管理人に見つかったら、あなたたちも人間牧場に入れられます。
絶対に日本人と言ってはだめですよ。

未来人、急いで、下手に走り去る。
上手から、管理人らしい人が銃を持って走ってくる。

管理人:
タマゴを持った女を見なかったか?

光太郎:
ホワット、ハプン?! アイドンノー。アイドンノー。

えりこ:
アイドンノー。

管理人:
オーケイ。

 管理人が下手にはけると、
 2人、手をつないで、下手を振り返りながら、上手に走って逃げる。

 

演奏 バッドライアー  2曲目
 ――セレーナ・ゴメス

【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、ベース、ドラムス、多人数コーラス / ダンス7名

 演奏終了後、ダンサーははける。

 机が3つ、上手側に斜め1列(中央向きに並んで学生が3人座っている)
 光太郎は真ん中に座り、机にうつぶせ。
 下手側に教師が立って、授業中という設定。光太郎、寝ている?

教師:
というわけで、日本は世界史上、例のない速さで高齢化が進んでいるというわけ。
人口の予測は、かなり高い確率でその通りになりますが、
西暦2100年には、日本の人口は半減します。
問題は、その前に、中小企業がつぶれ、大企業がつぶれ、
いろいろな技術が失われ、経済も破綻、福祉も破綻、国の防衛力も破綻、
つまり日本が日本でなくなる可能性が高いということなんです。
光太郎くん、教科書の158ページを読んでください。

光太郎:
(ぴくりともしない。)

教師:光太郎……。

雄二(後ろの席):
おい、光太郎、起きろ、起きろ!(と肩を叩く)

光太郎:
んー! たいへんだ、逃げなくちゃ!(と立ち上がって舞台のほうへ走る)
人間牧場、人間牧場、にんげんぼく……、あ、先生。

雄二:
先生、こいつ、毎朝4時起きで新聞配達しているんで、チョー睡眠不足なんスよ。
勤労学生なもんでね。

教師:
人間牧場って、そんな寝ぼけ方がある?

光太郎:
先生、たいへんなんです。将来、日本人はたった75人になって、
強制的に人間牧場に入れられ、強制的に繁殖させられるんです。

教師:
確かに人口は減っていきますよ。でも、たった75人にはならないと思うけど。
それは、いま見ていた夢でしょ。

光太郎:
でも、きっと本当になってしまうんです。

教師:
いつの話しなのよ、1000年後、2000年後の話。
私たちには関係ないわ。
でも、人間牧場、いいかもね。
エアコンのきいたガラス張りの快適なリビングで、
すてきな男性といつまでもゆっくり、コーヒーをすする。
ふと顔を上げると、来園者がじーっと、こちらを観察している。
そんなときは、余裕で来園者に手を振ってみせる。
……そんな人生も、悪くない。うふん。

光太郎:
ふざけないでくださいよ。

教師:人間牧場の口があったら、まっさきに私に紹介してほしいわ。喜んで入るから。
すてきな男性とペアでお願い。
じゃ、今日の授業はこれでおしまい。

雄二:
起立、礼、着席。

 教師、舞台下手に去る
 3人、舞台上手に(机と椅子をもってはける)

 

演奏   ロゴテパテ  3曲目
 ――テ・ヴァカ

【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッション(ボンゴ、バスタム、バスドラム、シェイカー)、多人数コーラス / フラダンス18名

 演奏終了後、ダンサーははける。

 舞台上手から光太郎たち、3人が出る

雄二:
で、その人間牧場、ふつうは有り得ないだろ。
お前、なんでそんなに真剣になってるんだよ。

光太郎:
夢じゃなくて、本当になるって思うからだよ。
子供の数は、どんどん減っている。人口は、確実に減っていく。
しまいには、人間が卵で育てられるという、かなりリアルな夢を見たんだ。

雄二:
社会の授業で少子化をやってたからって、……考え過ぎだよ。

康夫:
でも、NHKでも「縮小ニッポンの衝撃」とかドキュメンタリー番組やっていた。
実際に、人口が減って困っている自治体があるんだ。
限界集落というのになると、生活は厳しいらしいよ。

雄二:
限界集落、危機的集落、廃村集落、消滅集落。
そして、誰もいなくなる……。

光太郎:
いや、あまり先の問題じゃないんだよ。
これからの10年で近畿圏だけでも人手不足で、中小企業が減っていき、
112万人の雇用が失われ、経済規模で4兆円も少なくなるんだ。
きっと、僕らの時代に、予想もしないほど困ったことが起きてくると思うんだ。

雄二:
あれ、お前、何か臭うな。くんくん。てんぷらの匂いだ……。

康夫:うん、確かに、天ぷらのいい匂いだ。

光太郎:
(ポケットから、サイコロを取り出す)
あ、これは……!

雄二:
うん、このサイコロ、天ぷらの匂いだよ。うーん、いい匂い。
お前、なんでこんなもの持ってるんだ?!

光太郎:
エビ天の匂いだ。

雄二、康夫:
エビ天!

光太郎:
……いや、何でもないよ。(急いでポケットの中にしまう)

 舞台下手から、えりこが出てくる

えりこ:
あ。(光太郎を見て)

光太郎:
きみは、あのときの……。(近寄って、2人は見つめ合う)

 (全員がフリーズ。5秒程、間があく。その緊張感を破るように、雄二が動く)

雄二:
知り合いなの? 光太郎、すみにおけないな。ぼく、彼の友人の雄二です。

(雄二はそう言いながらえりこに近づき、後ろを通って下手側でセリフを終える)

えりこ:
知らないわ、こんな人。

 えりこ、雄二の顔も見ず、怒ったように上手に去ってしまう。

雄二:
え、知り合いじゃなかったの? ……可愛い子だったなあ。

光太郎:
ああ。……人違いだ。もう帰ろう。

 3人、舞台下手にはける

 

演奏 ガラスの香り(サキソフォンアンサンブル) 4曲目
 ――福田洋介 作曲

【編成】ソプラノサックス1名、アルトサックス3名、テナーサックス2名、トロンボーン2名、バリトンサックス1名

 演奏終了後、奏者ははける。

 舞台上手からえりこ。下手側に誰かを見つけて立ち止まり、凝視。
 そのあと、舞台下手から光太郎が出る。えりこに気付いて、フリーズ。

えりこ:
このまえは、ごめんなさい。……びっくりしちゃって。

光太郎:
僕も、びっくりしたよ。まさか、夢の中に出てきた人が、本当にいた、なんてね。
僕は、光太郎。きみは?

えりこ:
えりこよ。

ねえ、見て。あの空ーー。
……きれいな、……悲しいくらい、真っ青な、そら。

光太郎:
あ、飛行機雲。

えりこ:
ずいぶん速い飛行機ね。

光太郎:
ジェット戦闘機かな。

 しばらくの間。2人は黙って空を見ている。

えりこ:
……私ね、いずれあの夢のようなことになるんじゃないかなって、思ってたのよ。
こんな生活、続く訳がないって。

光太郎:
こんな生活?

えりこ:
そう、こんな生活……。

みんなが、それぞれ自分の欲を満たすのを目標に、生きている生活――。
何よりも自分の家族だけが大事。そして自分が大事……。
うちに古い人生ゲームがあるのよ。もう、誰もやってないけど。
その人生ゲームの上がりのマスに、なんて書いてあったと思う?

光太郎:
……億万長者になる、かな。

えりこ:
そうじゃないのよ。
「高級住宅地で余生を送る」――。驚いたわ。
……私はいつまでも楽しく働けたらいいなと思うんだけど。

光太郎:
余生を送るって、余った人生だよね。
つまらなさそうだな。僕も死ぬまで現役で働いていたいな。

えりこ:
私の家は祖父の代からの医者なの。今ではずいぶん大きな病院になってる。
入院患者は高齢者ばかりで、何百というベッド数。
昔の温泉旅館みたいに、次々に病棟を建て増しして、不格好な大病院。

光太郎:
君がお金持ちの子の代表としたら、僕は貧しい人の代表だな。
僕の母親は、1人で僕と妹を育ててきた。父親は事故でなくなったと聞いたけど、
それは言い訳で、たぶん僕が小さいときに離婚したんだと思う。
いま、全国の子供の6人に1人が貧困家庭の子というけど、僕もそれに入る。
僕は、子供のころからずっと考えていた。
人は、何を求めて、文化や技術を発展させてきたのだろうって。
ちっとも、「みんなの幸せ」のほうに向かっていないんじゃないか、と。

えりこ:
私達と同じ世代では、傷ついていない子なんて、……きっと1人もいないわ。

傷ついた子たちは、やがて思春期になると、
不登校になり、
アルコール依存になり、
ギャンブル依存になり、
摂食障害になり、
引きこもりになり、
LGBTになり……
次々と時代の犠牲者になっていく。

光太郎:
そうだよね。そんな生活、そんな時代が、ずっと続くはず、ないよね。

えりこ:
そうだ。あのサイコロに似てるタマゴ、ポケットに入ってる?

光太郎:
そうだ。(と、ポケットに手を入れる)。
それがね、天ぷらのいい匂いがしていたんだよ
あれ、卵じゃなくなってる!
(ポケットの中から、作り物のエビ天を出す)

えりこ:
海老天?!
変なサイコロ卵が、こんな形に変わっちゃったの?
もしかして、これ、さなぎかな?(と、えりこエビ天を光太郎から受け取る)

光太郎:
さなぎ? あっそうか。卵からさなぎになったんだね。
まさか、でも、本当においしそうないい匂いだ。
(また、光太郎は、エビ天をえりこから受け取る)
僕は、エビ天が大好きなんだ。
(エビ天を上にかざして、うれしそうに言う)

 (その時、えびすが、釣り竿で、エビ天を釣り上げてしまう。)
 (ヒューン、ポ〜〜〜〜〜イ、という効果音。)

光太郎:
あっ。

えりこ:
あっ、なに?  あ……。どこかへ行ってしまった。(2、3歩、追うように)
これも夢の続き?
(ちょっと声にならない声で笑ってから)育ててみたかったな。(光太郎を見る)
でも、不思議ね。私達、なぜあの夢を、一緒に見たのかな。

光太郎:
何かの力が働いて、きみと僕に、あの場所を見せたんじゃないか、と思う。

えりこ:
なにかのちから……。

光太郎:
日本はこうなってしまうから、何か手を打ちなさい、と
僕たちに伝えたかった、そう思うんだ。

 2人は下手にはける

 

演奏 カノホナピリカイ  5曲目
 ――ケアリィ・レイシェル

【編成】フラダンス22名 / ボーカル、エレキギター、キーボード、ベース、ドラムス