第227回「豆掴みと羽根つきがうまくできるようになっていた」

【質問】

 お正月遊びをしていて、私はこれまで豆つかみも羽つきもやっているのですが、これまではずっと全然できなくて、苦手だったはずなのに、今年は豆つかみも羽根つきもこれまでにないくらい自分としてはうまくできました。これはどうしてなのか、自分でも不思議なのですが、お父さんはどういうことだと思いますか。

 
 

【お父さんの答え】
お父さん:
 うーん、そういうことなんですよね。まさにそうなんですよ。
 摂食障害の症状が激しくて、たまらなくてここにやってきた人は、ソフトバレーなどは、全然できません。羽根つきもできません。豆掴み、これもできません。
 それが症状がなくなって、生きる希望が出てきて、人との関係のとり方もわかってくると、それが違ってきます。
 いつも何かにつけ大騒ぎして、私がこのなのはなの雰囲気を作るんだ、なんていう思い込みもだんだんなくなっていって、みんなに埋もれようとなってくると、まずは一見、普通の人になってきます。一見、普通になってきて症状もない。だけどやっぱり、ただそれだけでは今までのマイナスが消えただけです。これから自立していこうというときには、それだけの自覚とか、リードしていく気力とか、引っ張っていく行動力とか、自分が責任を持ってするという責任感とかが必要になります。
 ところが、症状が消えただけで、治った、ということにはなるんです。でもそれは本当に治ったというのとは違うと思うんです。

 ちょっとわかりにくい話かもしれないけどね、僕はよく、子供でも、人っていうのは、5歳は5歳の責任と義務と、10歳は10歳の責任と義務がある、と言うでしょう。10歳の義務と責任を果たしてきた人、15歳の義務責任を果たしてきた人は、20歳なり25になったらそれ相当の社会性というのか、判断力だとか責任感、意志がひとりでに身についていて、ここに来てもやることをちゃんとできたりするんですね。
 前に僕の娘が一人、ここに来たことがありますけど、摂食障害でもなんでもないですけど、やっぱり卓球をみんなと一緒にやったんだけど、その意志の強さとか、ここで過ごす責任感だとかがはっきり目に見えてわかるわけですよ。どんなふうに過ごせばいいのか。それなりに自分の期待される――誰も期待してるなんて言ってないけど、おそらく期待されているであろう――振る舞いが普通にできる。
 それが、ただ症状が消えたというだけの人はできないんです。治ったというように見せてもね。
 それができない人は、豆掴み、つかめない。羽根つきができない。
 前後左右を見て自分が取るべき行動がわからない。自信もないし、やる気も少ないし、頭が働かないんですね。
 それが、ちょっと一歩進んで、今から卒業してちゃんと自立しようかなとなってくると、同じことやってるはずなのに、ソフトバレーができるようになっちゃったり、羽根つきや豆掴みができるようになる。当たり前のことなんですよ。

 

お母さん:
 今日びっくりしたのが、体育館でなおとが、お父さんとお母さんに椅子を持ってきてくれたの。あのね、普通ね、何ていうかな、お父さんとお母さんは年老いてないけど、年老いた年配の人がいたりしたら、会社へ行っても、なおとくらいの年代の人は当たり前にしなくてはならないことなんだよ。で、今日、おお、なおと……と思ってさ。びっくりしちゃって。

 

お父さん:
 相当にやっぱりその自覚ができているよね。別にスタッフでもなんでもないから私は入居者ですって、ぼうっとみんなの中にいても、もちろんそれで構わないわけだけど、パッと見たら奥のほうにお父さんとお母さんにおそらく用意された椅子があって、ここで説明を受けるというときに、すっとその椅子を持ってくる。

 

お母さん:
 ああ、あそこに椅子がある、と視野が広く見えているんだよね。

 

お父さん:
 そういう気働きができるようになると、それこそ羽根がどっちに飛ぶかというのもわかるようになるし、上手にできるようになっている。
 それがわからないと、どうしようどうしようというばかりで、足も出なければ手も出ない。そういうことだから、運動神経の問題じゃないんです。自分の気持ちのポジションの問題ですね。
 どういうポジションを取るかで、世界が変わってくるということ。
 だから、僕らから見てると、ああこの人はまだ卒業できないなとか、仮に無理に卒業しても良い仕事はできないんじゃないかとか。この人はもう外で仕事ができるなとか。ここにいてもこういう心持ちでいたら伸びるなとか、この人はまだ伸び始まっていないなとか、それはもう本当に日々の、身体の置き方、廊下の歩き方、そういう日々の作業のこなし方、身のこなし方を見てて、それはもうはっきり分かる。
 おそらくみんなの中でも、なんかこの人とは作業がやりにくいなとか、なんかこの人とやると調子狂うなとか、逆にこの人とはやりやすいな、っていうのがあるはずです。
 その人とやりにくいというのは、全く気働きをしない人だったりします。気働きをして、こちらの周りを見て、一番ベストポジションを常にとってくれる人はやりやすい。本当に真面目に力を尽くしてくれたりすると、それこそ超やりやすい人になっていく。

 

お母さん:
 効率なんかもそうで、例えばこの間、タマネギをあそこで慌てて干すというとき、タマネギの球と葉っぱがあって、切る係の立ち位置が悪かったよね。いちいち「よいしょ」ってひっくり返さないといけないところにいた。
 そのままぽんと取って切れるところに立てば、仕事が早い。そういう気働きもちゃんと頭で考えてできるようになるから早いし、効率も良くなる。自分の立つ場所もみんなはまだわかってないというか、仕事が遅いというか、ウロウロしてるのね。
 そういう、一見しょうもない作業でも、自分の立つ場所で、効率の良さが違うんだよ。野菜切りでもなんでもそうだけど。
 そういうのがちゃんと気働きできて、わかってくるようになることが必要と思います。

 

お父さん:
 ということでね。
 本当にそれで、自ずと自分がどれくらい成長してきたかということもわかる。今この人は、もうそろそろ卒業してもいい人になってきたんだな、ということですね。あるいは逆に卒業するという前提でここ何週間か生きてみたら、急にできるようになっちゃったという、そういうこともありますね。どっちが先かはわかりませんけどね。

 

 

(2020年1月7日 掲載)









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