第191回「耳が良くないこと」

【質問】
 耳が良くないこと

 私は耳が良くないと思います。
 エンジン音を聞き分けたりするのはできますが、特に、人の声が聞き取れないことが、頻繁にあります。解読できないときには、相手に悪いと思いつつ、聞き返してしまうこともあります。わからないまま、流してしまうことも結構あります。
 相手の喋り方の問題というより、周りの人すべてが聞き取れているのに、自分だけ聞き取れないことが、多いです。
 聞く気は十分あるのに、聞き取れないです。
 前からそうだったのっですが、時々、悪化しているときがあります。
 これはどうしてですか。一度悪くなったら、直りませんか。できれば改善したいです。
 改善できるとしたら、どうしたらよいですか。

 〈自分の答え〉
 自分の場合、視力は落ちなかったのですが、耳が悪くなったのではないかと思います。
 (子供の頃は、そこまで、耳が悪いと感じたことはありませんでした)
 音自体は聞こえるから、聞き分ける部分が故障しているのではないかと思います。
 改善については、わかりませんでした。

 

 
【お父さんの答え】
お父さん:
 この質問を聞いて、ちょっと自分もそうかもしれないと思う人は、手を挙げてみて下さい。あ、結構いますね。
 これは2つの可能性があります。
 1つは、摂食障害の人は、耳を聞こえなくしてしまうことがあります。というのは、摂食障害の人は、これ以上傷つきたくないと思うと、周囲の刺激を拒否するために、視力を落として目をどんどん見えなくしていったあとに、耳を聞こえなくします。ただ、そのときには、全体的にどの音も聞こえなくなっちゃうんですね。どうもこの人は、聞こえてることは聞こえてるので、それではないのかなって思うと、別な理由、もう一つ、重大な理由があるんですね。

 それはですね、例えば、近所の訛りの強い年配の方と話すとよくわかります。
 何を言ってるか、訛りが強すぎてわかりにくい。多分、みんなだと60%くらいから20%くらいまで、理解に差ができると思いますね。最高でも60%くらいまでしか、何を言っているかわからないと思います。とくに電話になってくると、理解できる内容は3割くらいと思っていい。
 英語を勉強しはじめたときもそうですよね。電話って結構わかりにくいんですよ。電話でやりとりする英語、わかりにくいですよね。
 僕、若いときに旅行したとき、スペインからフランスに国際電話で、飛行機の予約確認をしたことがある。今と予約システムが違って、現地に入ってからもう1回、予約の電話を入れておかないと帰りの飛行機に乗せてもらえない。ところが、なかなか話しが通じない。向こうも英語がよくわからないし、僕も理解しないからお互い何を言ってるかわからない。電話だと、表情が見えないんです。雰囲気がわからないから話しが通じにくい。まあ一応、飛行機のチケットに関することだろうと向こうは思ったでしょうけど、表情が見えないし、ボディランゲージも見えないので、全部、言葉で伝えなきゃならない。これ、かなり難しいですよ。いくら言っても伝わらない。
 田んぼの前に立って排水口、入水口を見ながら地元の高齢者と話していると、何となくこれは排水のことを言っているなとか、わかりますよね。それを電話で言われたら何を言われているかわからない。つまり、人って言葉だけで理解しようとしても、なかなか理解できないんですよね。
 で、僕は、地元のKさんと話していると、いつも50%くらいはわかりますね。すごい理解力だと思います。それはなんでわかるかというと、もう早め、早めに、このことを言ってるんじゃないか、あのことを言ってるんじゃないか、本当はこう思ってるんじゃないか、ああやっぱりほらほらそうだそうだ、と思う。予想しながら聞いていると、それらしい単語が出てきます。
 単語をつなぎ合わせると、あ、このことを言ってるなとか。
 表情見てて怒ってるか怒ってないか。電話だと表情見えませんけどね。
 笑ってるふうに見える、とかね。
 それで汲み取るわけですよ、状況的に汲み取る。
 意外と、人って、そうやって、状況を汲み取りながら、何言ってるかわからなくても流していって、あとから、「ああ、さっきはこのことを言ってたな」と後付けでつじつま合わせをしながら聞いてるということが多いんだと思うんです。

 ところが、いいですか、人の気持ちを汲めなくなると、それができないんです。
 人の気持ちが汲めなくなるというのはどういうことかというと、みんなよくありがちな被害感情です。
 この人は自分に怒ってるんじゃないか、自分のこと嫌いなんじゃないかと思ってると、もうそのスタート時点で、(何か文句を言ってるに違いない)と聞き始めるので、途中で違うとわかっても(え、違うの? 何言ってたの、今)って、話しの脈絡が行方不明になって何のことかまったく理解不能に陥る。
 文句言われるだろうという思い込みが強いから、話しの前提がいつも違ってしまう。予測と違う方にいつも話が進む。そうすると途端に話の筋が見えなくなってくる。被害感情が大きかったり人の気持ちが汲めなかったりすると、相手がまるで何を言うかわからない状態で聞いてるので、本当に何を言ってるかわからないんですね。
 僕なんかはだいたい誰でも、この人は今こういう用事があって来ただろうと思うから、だいたい、もう言う前から予測する。すると、途中まで聞いただけでわかりますよね。

 お母さんと僕の会話でも時々、お互いに耳が急に遠くなることがある。「え?」「え? 今、何か言った?」って。
 なんか、(これを要求されたら嫌だな)と思うと急に耳が遠くなる。聞こえないふりをする。いや、そうではなくて、嫌なことは耳に入り難くなって、自然とそうなっちゃうから不思議ですね。何回も聞き返す。それが、あるということなんですよね。
 だから、意外と、耳が悪いんじゃないですね。気持ちが、被害感情とか、忌避感情があって心が閉じてると、相手の言う事がわからない。
 好意的に、「この人は自分を好意的に見てるだろう」という前提で好意的な話を聞いてたらスッとわかるけど、「この人はどんな文句をつけてるんだ」と思うと同時に、何か別の用事を言ってる、じゃあ今なんの話ししてたの、と振り出しに戻っちゃう。そんなふうに聞き取りそこなってしまうというのがあるんだと思うんですよね。

 僕はもう、英語を全然聞き取れなくなってきましたけど、もし一人でアメリカみたいなところに行ったとして、まあ3日目くらいになるとようやく単語が耳に残るようになってくる。そしたら、知ってる単語をポンポン拾い集めて、(こうだろう)というね。
 ただ、旅行をしてるときにはだいたいが、そんなにわからないですよ。
 向こうから何か聞かれるとしたら、旅行者に聞いてくる質問って限られていますから、そうだろうと思って聞いていれば耳に残りますよ。

 僕は今でも、何であれが聞き取れなかったんだろうと思っていることがある。
 アメリカで車を運転してて、たまたま検問やってて、その警官が、「ウェライゴ」って僕に言うんだよね。
 何だよ、そのウェライゴって、と思ってたら、ただ、「Where are you going?」ホウェア・アー・ユー・ゴーイング、って当たり前のことを聞いてきただけ。
 考えてみれば、「お前どこ行くんだ」くらい聞きそうじゃん。それなのに、「ウェライゴ」で聞き取れない。心の準備ができてなかったからですね。
 何積んでるんだ、トランクに何が入ってんだ、どこから来たんだ、どこへ行くんだ。思ってたら耳に入るのに。
 予測するということが大事。この人は今、何を言おうとしているのか予測しながら聞く。そうすると耳に残る。これは日本語も英語も何でもそうでしょうね。だいたい人って予想外のことは言わないですよ。
 だから、予想外のことを言ったとしても、流しながらちょっと聞いておいて、最初から言葉にこだわらないで全体を補足しようとしていれば、少ししたら、話の流れからするとこのことを言っていたなと、だいたいわかります。

 ああ、そうそう、変な言葉にこだわると、わからなくなるということはありますよ。
 まあ、聞き取れないという意味じゃ、英語を例にするとわかりやすいですけど、全部わかろうと思うといちいち単語を頭の中で翻訳してしまう。するとスピードが追いつかない。
 話しを川に例えてみると、上流から水が流れてくるけど、水のすべてにこだわらないで、桃が流れてきた、今度はミカン、今度は梨。そんなふうに間に何が流れてても、それは水だから関知しない。リンゴ。桃。知ってる単語だけをパッて拾えば、だいたい、(ああ果物のこと言ってるだろう)ってわかるわけですよ。
 それを全部聞こうとすると、理解しようと全部すると、途端にがんじがらめになってわからなくなる。追いつかなくなる。
 だからちょっと気持ちを楽にして、重要キーワードだけ、耳に入るのだけ拾いながら聞く。そういう聞き方をしてみては、どうでしょうか。

 

 

(2019年6月18日掲載)









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