第142回「頼まれごとが不安・時間に遅れる③」

(この記事は、前回からの続きです)

 

お父さん:
 やっぱり、失敗したら不安になる。この人の「失敗」というのがすごく中途半端で、人本位、他人本位だと思うんですよ。
 僕はこれから先のコンサートでも失敗することがない、って断言できるんです。今までも失敗したことがない。これからも無いんです。
 なんで断言できるか。
 失敗したときには、最初からそうする予定だったんだということにすればいいんです。
 今回のコンサートでは『オリエンタル・ウィンド』のとき、一輪車が2人で手をつないで曲乗りをしながら出て来るでしょう。絶対に失敗しそうじゃないですか。
 だから、あれはうまくいったらいったで、ピエロ役ののりよが、大げさに拍手することにしていたし、失敗したら笑い者にするポーズをとることにしていた。「失敗したー、見て見て」って大騒ぎしてね。それも予定通りなのかなって、お客さんに思わせる。失敗したときの仕草も決めておいてね、成功したときの仕草も決めておいてね。みたいな。
 失敗も予定通り。ああ、あれは、ってお客さんも納得しちゃう。そうすれば失敗が失敗じゃないんですよ。これは演奏もダンスも劇も全部そう。
 

 作業でもそうで、頼まれて失敗というのはあまりない。0か100かなんていう作業は、そもそもそんなに無いですよ。途中段階があるわけです。許容範囲で収める。ストライクゾーンで収めればいいのであって、ストライクの真ん真ん中である必要はないのです。
 人生って意外とそれなんだなと思っちゃうんですよね。
 
 コンサートではお客様が影絵も褒めてました。
 アンデスのシーンの影絵の制作が最後に残っていた。何か案がないですか、とコンサートの直前になって担当から聞いてきたので、さささっと描いて、これでいいから作って、って渡しました。僕は「綺麗にはできないだろうな、時間も無いから」と、できるだけ簡単にして、とりあえず枠を埋める。もうそれでいい、っていう。
 これが影絵大会に出場して、これで世界チャンピオンを決めるということだったらそんなことはしませんよ。今回はコンサート全体の中のごく一部で、何%でもない。これが音響の質に関することだったら、本当に精緻を極めた調整が必要です。でもそうするところと、ある程度でいいところと、そのめりはりをつけていく。それをどこにするかは、自分で決めればいい。誰かに決めてもらって、これ怒られるかな、怒られないかな、ではない。
 だから、自分で、「ストライクゾーンはこれくらい」と決めちゃうのです。

 今度のコンサートの脚本を担当しました。
 それについて言うと、僕は今だにまだ気持ちが興奮状態で客観的には考えられません。今までで最高だったと何人にも言ってもらえたけど、自分的には、正直、何が今までで1番良かった理由なのか、今はまだよくわからないんです。
 この脚本だけど、今から書くぞ、というとき、何も無いわけです。良いものができるかわからない。 0から考えて書き出すわけですよね。そのときにあるのは不安だけです。だって台風と宇宙人とサーカスを組み合わせてストーリーを作る、それしか材料がないわけですから。
 つなぎ合わせようがない。台風と宇宙人……、つくれと言われたってね。
 だけどそのときに、ただ面白いもの、そこそこ面白いものはできるだろうっていう、自分に対する期待はあります。とりあえず書き出したときは、自分しかいない。自分に期待するしかないんですね。その期待で不安を乗り越えていく。
 
 自分に対する期待。それを持ち続ける。過去にその期待に応えてくれたことがある自分を大事に思って、自分を信じるのです。
 自分は今までだってできてきたんだから、またやれるよ、きっといいものが書けるよ、と期待しながら、じいっとワープロの前で、真っ白い画面にカーソルがテンコテンコしてるのを見ていると、そのうち書かずにはいられなくなってくる。本当にそういう自分に対する期待をいつまで経っても持ち続けることが大事です。
 3時間経っても5時間経っても1行も書けない場合は、疲れていますから、横になって寝てみる。
 寝たら何か浮かぶんじゃないか、とそれでも期待は続く。
 延々と待ち続ける。
 そうしたら、出てこざるを得ないんですよね。
 で、実際にはどうかというと、原稿を書くときなんかは、なにかヒントが無いかと近くにある雑誌を手にとって、そこに気持ちを逃がしてしまったりというのもあります。
 読み始まると熱中しちゃってね。ああもう半日経っちゃった、気がついたら周りにある雑誌は全部、目次から編集後記まで読み尽くしちゃって、しょうがないから原稿に向かう。
 そうなんですよ、ほんとうに。そのうち、「ああ、もう」って言ってるうちに何かしら出てくる。最後まで諦めない諦めない諦めないっていう、ね。
 諦めなかったら、失敗とかはないんです。

 

お母さん:
 そういうところあるよね。本当に悪あがきを2人してしてる。

 

お父さん:
 書き出して何度も書き直していると、そのうち良いのか悪いのかわからなくなってしまう。すると、最後の最後を、なおが手直しして書き加えてくれたり、お母さんがハサミでちょきちょき脚本を切り出して、つけたり貼っつけたり外したり。そのうち僕は、自分でも何を書いたのかわけわからなくなってきて、ちょっと皆さん手を貸して、という形でだんだんできてくる。
 自分で譲れないところとかはあるので、もちろん最後まで手は離さないけれども、途中は助けてもらえるところは助けてもらおう、みんなで作ろうというふうには思います。
 やってみたら、「一番面白かった」と言われて、そうか、そうだったのかって思う。
 そういうことなんでね。この質問にあるような、0か100か、なんていう種類の作業や仕事は、普通ではどちらかというと少ないんじゃないかな。
 どっちみち、みんながやることですし、みんなが何とかしてくれる、って頼ったらいい。

 それから、コンサートの曲目が書かれたリーフレットに、『オリジナル新曲』って書いてあるんだよね、タイトルが。小野瀬健人作詞となっている。けれども、リーフレットを発注したときには、まだ詩を書いていないです。ひょっとしたら出来上がらない可能性もある。だから曲目の最後に「曲目は変更する可能性があります」と入れておいてね、と言いました。
 歌詞の文字数だけさとみからもらってたんだけど、僕があまり書かないものだから、曲を忘れちゃったでしょ、とさとみがUSBで曲のデータをくれていたので、それを聞いて、じゃあ書くか、脚本もひと段落したし、と。それでなんとか本番までに間に合いました。
 でも、完成したのが遅くて練習時間がなくて、ホールで数回合わせただけであゆが歌わなければならなかったので、練習では最後までいったことが1度もなかった。これ、大丈夫かなと思ってたけど、最後まであゆが歌えたのは本番が初めてだったね。
 あまりにも作るのが遅かったけど、結果的にいえば、本番で使えたからストライクゾーンにギリギリ入った、ということでしょうね。

 

お母さん:
 あれ、題名どうするんです? 題名のないオリジナル曲だね。

 

お父さん:
 こないだ頭にポッと浮かんだんだけど忘れちゃったんだよね。何かつけようと思いますけどね。幸い村田先生が気に入ってくれた。

 

村田先生:
 いいですね。すばらしい。

 

お父さん:
 そういうことでこの人は何かやるときに、およそ自分のストライクゾーンを持ちなさい、というのが答えですね。
 真ん真ん中じゃなくていいですよということ。意外とストライクゾーンは広いですよ。そのストライクゾーンで仕事をしましょう。正確にしようとする気持ちが行き過ぎると、根本的なところを取り違えることも多いです。

 

村田先生:
 松下幸之助も、「6割できると思ったらやる」って言うね。できるかできないか迷ったとき、6割できそうだなと思ったらとりあえずチャレンジする。

 

お父さん:
 そうね、6割ぐらいで充分にストライクゾーンですよということでしょうね。

 

 

(2018年12月25日掲載)









第66回「自己否定について」
第67回「友達が欲しい人、そうでない人」
第68回「未来を信じる」
第69回「山を登ると」
第70回「リーダーをすると苦しくさせる」
第71回「自分から人を好きになる」
第72回「小さいころからの恐怖心」
第73回「お姉さんのような存在を」
第74回「作業に対して気持ちの落差が激しい」
第75回「大きな希望を持つとき①」
第76回「大きな希望を持つとき②」
第77回「夢について・集中力について」
第78回「やるべきことをできていなくて苦しい」
第79回「やるべきことをできていなくて苦しい②」
第80回「真面目さは何のために」
第81回「高いプライドをつくるには」
第82回「番外編:そうだ、お母さんにきいてみよう!」
第83回「相談、確認が多いことについて」
第84回「自信を持つ」
第85回「間の良さ、間の悪さ」
第86回「過去を美化してしまう」
第87回「統合力を高めるには」
第88回「見張られているような不安」
第89回「どうして人間だけに気持ちが必要なのか」
第90回「休日になるとやる気がなくなってしまう」
第91回「低気圧」
第92回「どうして動物を飼うの?」
第93回「自分を褒める話をするには」
第94回「眠れない」
第95回「ふいに恥ずかしくなる」
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第97回「壁をなくしてオープンになるには」
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第99回「私のストレスは何?」
第100回「社会性を身につける」
第101回「依存を切り離す期間は? その後はどう変わる?」
第102回「依存を切り離すことについて②」
第103回「会話が理解できない・生きる意味」
第104回「何者にもなれないのでは、という不安」
第105回「一緒に長時間いられない」
第106回「人の気持ちを汲めない」
第107回「リーダーとしてちゃんと動くには」
第108回「仕事への情熱と、興味があること」
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第111回「外見について」
第112回「芸術、情緒、愛情 心の深さ」
第113回「なぜ風俗業は禁止にされないのか」
第114回「生き難さを抱えていなかったら、どんな将来の夢を」
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第124回「野菜の収穫基準がわからなくなる」
第125回「自分を楽しませること、幸せに過ごさせることが難しい」
第126回「向上心を持てないこと」
第127回「アーティスティックな心」
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第129回「個人プレイからチームプレイへ」
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第131回「なぜ、痩せているほうが良いと思われるのですか?」
第132回「予定が変わると、気持ちがもやもやする」
第133回「楽観主義者と悲観主義者の境界線」
第134回「上品に、笑顔で、美しく」
第135回「続『上品に、笑顔で、美しく』」
第136回「嘘をつけない」
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第138回「お父さんが怖い 後編」
第139回「見事やで」
第140回「頼まれごとが不安・時間に遅れる①」
第141回「頼まれごとが不安・時間に遅れる②」
第142回「頼まれごとが不安・時間に遅れる③」
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第211回「期待について その②」
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第216回「我欲と、自分を大切にすることの違い」
第217回「声を前に出して歌うには」
第218回「できる気がしない、と感じてしまう」
第219回「苦手なことをしている時間を苦痛に感じてしまう」

第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
こちらからご覧いただけます!
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