第138回「お父さんが怖い 後編」

 

第137回の続きです)

 

お父さん:
 この質問にはお父さんのほかにも「やっぱり怖く感じる人」というので名前が2人挙がっています。
 この2人はどういう人かと言うと、2人とも僕からするとすごく真面目で、いつも一生懸命な人です。
 畑作業を熱心にやる人というのは、例えば一生懸命やってて、誰かが間違った作業をしていたら「それやらないで」ってきつく言うこともあるでしょうね。
 「違う、違う、そのやり方はやめて」とかって言うことも、もしかしたらあるかもしれない。全否定するみたいにね。それは何かと言ったら、良い作業をしたいからです。

 ここに「怖く感じる人」という例で挙がっている2人は、どっちかと言うと平均的な人よりもずっとやる気のある人です。
 怖いというのは、オバケとか、よその犬とかは怖いですよね。いつ噛み付いてくるかわからなかったり、いつ墓場に引きずり込まれるかわからないから怖いのであって、善意の人だということがわかっている人は怖く感じないのが普通です。
 ここに挙げられた2人が善意の人かどうかと言ったら、かなり善意の人です。責任感が強い。真面目さもかなりある。真面目で善意な人だとわかっていたら、もしも誰かを蹴散らすような言い方になってしまったとしても、怖さはないんじゃないかと思う。

 逆に言うと、例えば畑の世話をするにしても、自分がそこまで畑に熱意を持てないとか、ダンスをやるにしてもそこまで熱意を持てない、という人は、懸命になっている人が少し強い言葉で修正したら、何で叱られるのかわからない、となってしまうでしょうね。
 楽器をやるにしても、「ちょっとくらいズレたって良いじゃないの。何で怒るかわからない」となるでしょうね。
 私は音程がズレても良いと思ってる。間違ってもいいと思ってる、という人に向かって、「ちゃんと音を出して」とか「もっと強く」と言ってると、バカみたい、怖い、なんでそんな大きな声を出されなきゃいけないの、わかんないって思っちゃいますよね。

 「生きる」ということに対する熱意が大きくかけ離れてる。っていうことなのかなと思うんですよね。
 わからない人、っていうのは、ね。
 何でそんな一生懸命に畑をやるのか、何でそんな一生懸命に虫を潰すのか。わからない。ということになっちゃうでしょうね。
 この質問の人からすると、善意で良い方向の熱意を持っていれば持っている人ほど、怖くて、わからなくて近寄りがたい人になっちゃう、ということですよね。
 だから、熱意を自分も同じように持ってたら、ものすごく気が合うでしょうね。僕は今ここに挙げた、恐いという2人と、ものすごく気が合います。僕からするととてもわかりやすいし、意気投合している2人という感じです。

 何かに向かう熱意のレベルが同じで、そこを理解してると、それは違うだろうとか、こうだろう、ああだろうと喧嘩になっても、怖くもないし、むしろ理解が深まる。
 例えばお母さんと、脚本をこう書く、ああ書くって議論をしてるのを関係のない人が横で見ていたら、大喧嘩してるようにしか見えないですよ。だけど2人で同じ気持ちで、脚本を良くしようとガーガー言い合っているときには、相手が怖いも何もない。
 良いものを作ろうという目標が同じですからね。相手の人格が嫌いで攻撃してやろうとか、いじめてやろうとか、お互いにそういうことは全然ないので、いくらきついことを言い合っても、何の誤解もないわけです。

 だから、熱意の持ち方の違いというのは大きいでしょうね。あと、コンディションの理解の仕方とか。
 こんだけ熱意持って、こんだけやってたら、きつく言うのも当たり前だということがあります。前も言ったけど硬式バレーボールの公式戦で、一番最初の頃、試合中にアタッカーに向かって「アタック打てって言ってんだろコノヤロー! フェイントしやがって! 聞こえなかったのかお前は!!」って、怒鳴っていた。監督だからね。
 一応、勝ったのかな、そのときの試合では。
 ところが、試合後、相手チームの監督が来て、こう言うんです。
「小野瀬さん。小野瀬さんとこの選手って摂食障害の女性ばかり、じゃなかった?」
「摂食障害の人ですよ」
「その人って、確か心が傷ついてる人だと聞いてるけど」
「ああ、まあ過去に、そういう傷はあるでしょうね」
「その心が傷ついてる人に、バカヤローって、あんなこと言っていいの?」
「良いも何も、普通の女の子ですから、試合中は構わないんです……」
 ってなったんだけど、実際どうなんですか。白熱している試合中に、
「すいません、あのー、そこはアタック打って欲しかったんですけど……」じゃわからないでしょ! 
 試合に勝ったら、やったー! と言って、もう水に流せるわけですよ。でも、そこで熱意が違う人がいて、バカヤローって言われて、「ええ? なんで? ……」っていう展開になったら、それは確かにやってられないよね。

お母さん:
 須原さんやこうもそうだよね。土建屋さんとか、ああいう仕事してる人って、直にバーッて言わなきゃいけない。危ないから、怪我するから、建築作業中は言葉が荒いよね。それがいちいち「その言葉には傷つく」なんて言ってたら、事故で死んでしまうこともあるわね。木に挟まったり、怪我したりとか。
 だから、その心持ちを、やっぱり、相手の人と添えるようになるというのが大事なんじゃないかなと思う。

お父さん:
 須原さんも脚を大怪我したの知ってる? 大きいものを落として、太腿の筋肉が裂けて骨が見えるくらい。今でもちゃんと正座できないんですよ。建築とかやっていると、そういう怪我というのがあるんだよね。力もあるけど、「そっち持て!」とか「離すんじゃない!」とか、かなり強く言わないと大怪我しかねないでしょ。スポーツもそうなんだよね。同じそれを持って、同じ意識を持ってやってれば、よく聞こえるように強く言われても、怒鳴られても、怒鳴られたなんていちいちこだわらないということなんです。

お母さん:
 お父さんは、だから大きな機械を壊しそうになったりしたときは、すごくきつく怒るでしょう。そういうものを触るときには気を張っていかなきゃならない、と――。

お父さん:
 気持ちを張っていかなきゃいけない。
 気持ちを張って、熱意を込めて生きてる人と、熱意を持ってない人。
 実は、バレーボールだったらわかりやすいんです。アタックで強打したボールに当たったら痛いから、みんな同じ緊張感でやってる。だからコートに入っている人は、同じ緊張感でやっています。
 
 だけど畑はわかりにくいんです。強いボール飛んでこないから、緊張感を持っている人も、緊張感を持っていない人も、同じところで同じような作業ができてしまう。
 つまり畑では同じ鍬を持って同じ作業をしていても、実際には同じ緊張感でやってなかったりするのです。
 熱意を持っている人が、みんなは同じ緊張感でやってると思って「それ畝が曲がってるわよ!」って言うと、緊張感を持っていなかった人は「怖い。この人なんでこんなこと言うの」と、わからない、となってしまいますよね。
 同じ緊張感でやってたら、「曲がってた? 気づかなかった! ありがとう」と言って喜んで真っ直ぐに畝を作り直すだけです。怖いともなんとも思わない。
 
 それが、この人は怖いとか、わかりにくい、となるのは、いつも緊張感が薄い、熱意をもって作業をしていない、熱意をもって生きていないからだ、ということなのでしょうね。もし、怖い人とか、わかりにくい人というのをなくしたかったら、もっと熱意を持って作業をしてみてください、熱意をもって生きてください、それがその対策ですよ、ということです。

 

 

(2018年11月30日掲載)









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第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
こちらからご覧いただけます!
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