第136回「嘘をつけない」

【質問】
 私は嘘をうまくつけないし、言えたとしても隠し通せません。これはアスペルガーだからですか? どうしたら必要な嘘がつけるようになりますか?
 

 

【答え】
お父さん:
 そうね、必要な嘘。
 僕は基本的に嘘はつかなくて良いような気がしますね。時々、優しい嘘というのは必要……かなと思いますけど、本当に嘘が必要な場面というのは、そんなにないですね。
 嘘が必要な場面として、僕が一番、印象的な話はね、これは、お母さんから聞いたと思うんですけど……。

お母さん:
 お母さんも今、お父さんが言おうとしてることを言おうと思ってた。

お父さん:
 じゃあ言って。嫁の話だよね。

お母さん:
 そう。お母さんが本当にすごく心に残っている嘘なんだけど。優しい嘘、って思ってるのよね。どうぞ。お父さんが話して。

お父さん:
 あ、そう?
 ある男の人がね、お嫁さんをもらって、暮らしていたのね。男の人のお姑さんと一緒に、二世代同居でね。
 それで、そのお嫁さんが、すごくできたいいお嫁さんだったんです。
 気が利いて、掃除もできるし、料理もうまいし、申し分のない嫁さんだった。賢くて、美人でね。本当に申し分のない嫁さんで、もう夫婦仲も良くて、それで、夫婦円満だった。
 姑にとっても、本当に申し分のない嫁だった。
 ところが。そのお嫁さんが、それほどの歳にもならないのに、つまり若いうちに、病気になって、あっけなく、死んでしまったんですよね。
 夫は、嘆き悲しんでね。そりゃそうです。本当に大好きなお嫁さんでしたからね。
 でも、まあ、いつまでも悲しんでいられないからね。
 再婚したほうが良いんじゃないかという話になってね。<

お母さん:
 まだ若かったからね。

お父さん:
 若かったからね。見合い話しを持ってくる人がいて、この人なら、という女性と再婚したんです。
 だけど、何をとっても、前の奥さんのほうが良かった。何をとっても、です。
 だけど、そんなこと言えないよね。

お母さん:
 誰にもね。
 でも、その、あとから来た奥さんは、うっすらわかるのね。夫が心から喜んではいない、と。

お父さん:
 その、前のお嫁さんのほうが好きだったんじゃないか、みたいなことを感じるわけです。自分よりも、亡き妻が好きなんじゃないか。忘れられないんじゃないか、みたいなことをなんとなく思ってね。
 それでも、そんなこと口に出すわけにいかないので、まあ夫婦円満に仲良くやっていた。
 でも、ある日思い余って奥さんが、姑に聞いたんだ。旦那のいないところでね。

お母さん:
 あの人は、前の奥さんのことが忘れられないんだと思いますが、前の奥さんはそんなにいい方だったんですか? と聞いてみたんだね。

お父さん:
 そしたら、それを聞いた姑が、即答したんだね。
「何言ってんの。前の奥さんはもう悪妻で、どうしようもない嫁さんで、夫婦仲も悪くて、話にならなかった」
 そのひと言を聞いて、パッと顔を明るくして「そうなんですか?」と今の嫁さんが安心した。

お母さん:
 具体的に、こう、こうって、悪いところを並べたんだって。

お父さん:
「亡くなっちゃったから、どうこうって言えないんだけど、いやもう、話にならない。あんたのほうがよっぽど良いよ。それはうちの息子もわかってると思うよ。もし何か、気にそまないことを言っていたら他のことが原因で、前の奥さんのことが原因じゃないと思うよ」
 それならよかった、となった。

お母さん:
 そんな茨城弁のお姑さんじゃないで、もっと上品やで。

お父さん:
 そうか……。でも、嫁さんは、ほっとするわね。

お母さん:
 それからね、あとから来たお嫁さんは、もう、(ああそうだったのか、そんなに苦労したのか)って。じゃあもっと旦那さんを良くしてやらないといけないわって思い直してね。喜んで尽くして、また、本当に、周りの人が、どうしたんだろうと思うくらい、家の中が明るくなって、本当に幸せに過ごしたの。
 お姑さんはその後、前の奥さんのお墓に行って深く頭を垂れて「嘘をついてごめんよ。お前のほうがずっといい嫁だった。私はお前が大好きだった。かりそめの嘘とは言え、お前のことを悪く言って済まなかったね。ごめんよ」と泣きながら謝ったそうなの。

お父さん:
 というね、嘘だよね。こういう嘘はついたほうがいいだろうね。
 それに関して言うと、生き別れというのと、死に別れというのがあるんですね。
 死に別れというのは死んで別れる。生き別れというのは生きて別れるね。
 死に別れというのはあまり良くないと言うんだね。というのは美化しちゃうから。生きてるとボロが出るけど、死んでるからもうボロが出ない。死に別れをした人のことは、どんどん良くなっちゃうという話ですよね。
 

 最近、ナイフの話してないけどね。
 これは僕が読んだ教科書の話……、何の教科書に載ってるんだろうと、今思うと疑問ですけどね。
 ある羊飼いの少年が、いたんですよね。
 で、その羊飼いの少年は毎日、毎日、それこそアルプスの少女ハイジじゃないけど、学校も行かずに、羊を追って暮らしてる、そういう村の少年だったんですね。
 で、ある時、親戚のおじさんが、都会からやってきて、「君に良いナイフをやろう、特別いいナイフだ」と言って、ナイフをもらったんだね。
 そしたら、それがもう、見たこともないような素晴らしいナイフでね。
 これから山に行ってなにか切るときでも、蔦を切るときでも、すごい便利に使えるだろうと思って、この少年はすごく喜ぶわけですよ。これは一生の宝にしようと言って、大事に大事に持ってたんです、そのナイフをね。
 

 ところが、そうこうしてるうちに、羊を追って歩いてる生活ですからずいぶんと歩き回る。腰に結わえ付けてたそのナイフを、どこかに落としちゃったらしいんです。
 もうその少年は、泡食って、探しましたよ。
 今日、どこを歩いたっけ。もう歩いたところ、休んだところ、何度も、何度も探し回るんです。どこで、失くしちゃったんだろうってね。
 もう、必死になって探したんですよ、何日も。羊を追うどころか――羊追いながらも、ナイフばっかり探していた。
 それが、出てこないんですよ。とうとう出てこなかった。
 少年は、またいつか、あんなナイフを手に入れたいなと夢見るようになった。もう、星空を見上げると、星の星座がナイフの形に見えるくらい、そのナイフに焦がれていた。
 

 それからずいぶん時間が経った後のことです。
 そうこうしてるうちに、少年にチャンスがやってくる。
 街に降りるという、チャンスがやってくる。
 少し小遣いをやろう、ということでお金も余分にもらってね。
 それで、街のナイフ屋さんに自分でナイフを買いに行ったんです。ところが、思うようなナイフがない。僕のナイフはこんなんじゃなかった。どのナイフを見ても、どうということのないナイフばかりで、本当に残念な思いしか出てこない。
 しょうがなくて、
(まあ良いや、この際、たいしたナイフは買えなくてもしょうがない。あんな良いナイフはもう二度と手に入らないかもしれないな)
 と、半分あきらめて、そこそこ良さげなナイフを、お小遣いで買ったんですね。
 あーあ、こんなナイフか、と思いながら、自分のものにして使っていました。
 しょうがないな、あの落としてしまったナイフはどれだけ素晴らしかったろうかと何度も思いながら、過ごしていたんですよ。
 

 そうやってしばらく時間が経ったある日、いつものように岩場で休憩して、ふと足元を見たら、何か落ちてる。
 細長いもの。
 なんだろうと思って拾い上げたら、岩と岩の間に挟まっていたものを拾い上げてみたら、ナイフだったんですね、それが。 
 これは僕のナイフだ、あの落としたナイフだ、とびっくりした。見れば見るほど、あのときの素晴らしいナイフ、と思ったものなんですよ。
 それが、いま自分が持ってる、大したことないと思ってるものよりも、よほどチープな、つまんないナイフなんですね。
 ええ? これがそうだったの? あんときのナイフには違いない……。自分はこのナイフをあんな素晴らしい、この世にこれより素晴らしいものはないと思っていたのか。
 そんなふうに気がつくんですね。複雑ですよね。出てきたんだけど、いつのまにか自分の中で、空想の中で、素晴らしいナイフに仕立て上げていたんだな、っていうことを思う訳です。
 というお話なんですよ。
 

 だからね、死に別れた女房をあんまり美化するものじゃないです。
 なくしたもの。
 もう二度と手に入らなくなった生活。
 二度と手に入らなくなったものに対して、どうしても必要以上に美化してしまう。そういう、美化しすぎるというのは、良くないんじゃないでしょうか。
 で、今あるもの、いま手に入るものが、今の自分にとって一番、適切なものと信じる気持ちが大切だよね。
 で、嘘の話しから、ずいぶん逸れましたけど、そんなところで。

 

 

(2018年11月23日掲載)









第66回「自己否定について」
第67回「友達が欲しい人、そうでない人」
第68回「未来を信じる」
第69回「山を登ると」
第70回「リーダーをすると苦しくさせる」
第71回「自分から人を好きになる」
第72回「小さいころからの恐怖心」
第73回「お姉さんのような存在を」
第74回「作業に対して気持ちの落差が激しい」
第75回「大きな希望を持つとき①」
第76回「大きな希望を持つとき②」
第77回「夢について・集中力について」
第78回「やるべきことをできていなくて苦しい」
第79回「やるべきことをできていなくて苦しい②」
第80回「真面目さは何のために」
第81回「高いプライドをつくるには」
第82回「番外編:そうだ、お母さんにきいてみよう!」
第83回「相談、確認が多いことについて」
第84回「自信を持つ」
第85回「間の良さ、間の悪さ」
第86回「過去を美化してしまう」
第87回「統合力を高めるには」
第88回「見張られているような不安」
第89回「どうして人間だけに気持ちが必要なのか」
第90回「休日になるとやる気がなくなってしまう」
第91回「低気圧」
第92回「どうして動物を飼うの?」
第93回「自分を褒める話をするには」
第94回「眠れない」
第95回「ふいに恥ずかしくなる」
第96回「躾について」
第97回「壁をなくしてオープンになるには」
第98回「自分がオーラのある人になるには」
第99回「私のストレスは何?」
第100回「社会性を身につける」
第101回「依存を切り離す期間は? その後はどう変わる?」
第102回「依存を切り離すことについて②」
第103回「会話が理解できない・生きる意味」
第104回「何者にもなれないのでは、という不安」
第105回「一緒に長時間いられない」
第106回「人の気持ちを汲めない」
第107回「リーダーとしてちゃんと動くには」
第108回「仕事への情熱と、興味があること」
第109回「日々の習慣を持つ」
第110回「自分のアスペルガー的な要素について」
第111回「外見について」
第112回「芸術、情緒、愛情 心の深さ」
第113回「なぜ風俗業は禁止にされないのか」
第114回「生き難さを抱えていなかったら、どんな将来の夢を」
第115回「健全な家庭なら自我は育つのか」
第116回「自我を育てる」
第117回「説明が理解できない」
第118回「好きな花①」
第119回「好きな花②」
第120回「血を連想させる単語を聞くと」
第121回「社会性と、基本的な姿勢」
第122回「深い関係をとって生きる」
第123回「ノルマ感、義務感が強い」
第124回「野菜の収穫基準がわからなくなる」
第125回「自分を楽しませること、幸せに過ごさせることが難しい」
第126回「向上心を持てないこと」
第127回「アーティスティックな心」
第128回「野性味を取り戻す」
第129回「個人プレイからチームプレイへ」
第130回「すべてのことを高いレベルでやりたい」
第131回「なぜ、痩せているほうが良いと思われるのですか?」
第132回「予定が変わると、気持ちがもやもやする」
第133回「楽観主義者と悲観主義者の境界線」
第134回「上品に、笑顔で、美しく」
第135回「続『上品に、笑顔で、美しく』」
第136回「嘘をつけない」
第137回「お父さんが怖い 前編」
第138回「お父さんが怖い 後編」
第139回「見事やで」
第140回「頼まれごとが不安・時間に遅れる①」
第141回「頼まれごとが不安・時間に遅れる②」
第142回「頼まれごとが不安・時間に遅れる③」
第143回「大きな声を出すこと」
第144回「時間の使い方」
第145回「お腹がすく」
第146回「本を読む時、第三者の視点になってしまう」
第147回「罰ゲームの答えとユーモア」
第148回「アイデアが出ないこと」
第149回「気持ちと身体の助走」
第150回「花や動物を可愛いと思えない」
第151回「美味しいセロリ」
第152回「尊敬している人といると、あがってしまう」
第153回「考え事がやめられない」
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第155回「寝汗をかかなくなった」
第156回「時間の不安について」
第157回「楽器を練習したい、本を読みたい」
第158回「疲れを認めたくない」
第159回「アトピーと蕁麻疹」
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第163回「潔癖症について」
第164回「自尊心」
第165回「自分の身体のサイズ感をとらえるのが苦手」
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第168回「野菜の調子が悪いと、自己否定してしまう」
第169回「好きな気持ちと、誤解をされることへの不安について」
第170回「トイレが近いことについて」
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第186回「気持ちの切り替えが、うまくできない」
第187回「米ぬかぼかし作り」
第188回「評価すること」
第189回「堂々とした人に怯えてしまう ①」
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第194回「整理整頓、片付けができない」
第195回「次のミーティングは、いつですか?」
第196回「整理が過ぎるのは症状ですか」
第197回「人をもっと理解したいということについて」
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第200回「やるべきことに追われてしまいがちな気持ちについて」
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第211回「期待について その②」
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第215回「秋が寂しい」
第216回「我欲と、自分を大切にすることの違い」
第217回「声を前に出して歌うには」
第218回「できる気がしない、と感じてしまう」
第219回「苦手なことをしている時間を苦痛に感じてしまう」

第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
こちらからご覧いただけます!
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