第128回「野性味を取り戻す」

【質問】
 私はダンス練習やスポーツの練習をしているとき、楽しいし、もっと上手くなりたいと思うのですが、ふっと「早く終わってくれ」と思うことがあります。それは、なにか失敗をして、注意されたり、怒られる前に早く終わってくれということなのではないかと思いました。楽しい気持ちが大きかったり、失敗することへの怖さが大きいときがあったりして、苦しいです。
 具体的にどうしたらこの気持が消えますか? そういう気持ちをなくして練習や作業に臨みたいです。 

 自分の答え
 失敗するのが怖いとか、怒られるのが怖いというのは、小さい頃に母に怒られたりしたことをどこか引きずっているからで、それを整理したら消える。具体的にどうしたらいいかはわかりませんでした。
 

 

 
【答え】
お父さん:
 自分の答えにある通り、失敗するのが怖いんですね。
 具体的にどうしたら良いか。親に対する気持ちの整理はもうできてると思うんです。
 まず心がけることは、大きな声で話す、ということです。
 普段から、大きな声で話すのです。間違ってても正しくても、とにかく大きな声を出す。これはいつでもできることです。
 

 それと、心構えとしてはね、ひと言でいうと、「心に野生を取り戻す」ことなんです。
 なんていうのかな……親に言われたことをきちんと守る、先生に言われたことをきちんと守る、年上の人に言われたことを守る、そうやって正しくきちんと生きている人は、困ったことに、“良い子だね”という評判は良くなるんだけど、人間としての心からどんどん離れていってしまうのです。
 人間って元々は、野生動物と同じですからね。本来は、かなり野生的なところがあるわけですよ。昔は、それこそ自分で、獲物を捕まえていたんです。
 食料を見つけ、場合によっては逃げる獲物を獲ってきて、食べて、生きてきたわけでね。
 だから、平均寿命って今80歳とか86歳とか言っていますけど、江戸時代なんかは45歳くらいでしょ。
 クロマニョン人の時代は、人間の寿命は18歳。
 3000年くらい前の古代エジプトのころは、平均寿命が25歳。
 西暦1800年でもヨーロッパで37歳。今から100年ちょっと前の西暦1900年でも、平均寿命は48歳だったんです。
 平均寿命が25歳だったら、もう13,4歳になったら急いで子供も産まなきゃいけない。子供を産んで、ちょっと育てて子供が大きくならないうちに死んじゃうというね。
 その頃の人間は、ものすごく野性味が強かったでしょうね。
 

 今、みんな肉を食べてるけど、この中で、自分は鶏を捕まえて鶏肉にして食べた、とか無いでしょう。兎を獲って食べたとか、野生の豚や猪を捕まえて豚肉にして食べた、なんてないでしょ。今は魚でさえ、釣りをしたら「この魚、変ですね、切り身になってない」みたいなことを言う人がいる始末でね。魚って頭と尻尾があるんですか、みたいな、極端に言うとそれくらい1匹の魚の全容を知らない、そういう人もいるくらいの時代になってしまっている。
 野性味からどんどん遠のいてしまっているよね。
 野性味から遠のくことで、失われるもの。人間味だとか。人間本来の心のときめきだとか、知恵だとか、そういうものがものすごく失われてしまったり、あるいは、弱ーくなったりしてる、というふうに思うんだよね。
 で、それが、心のバランスを失わせたり、あるいは怖がりになったり、普通に人と向き合うことが難しくなってしまったり、させているんです。人間として、気持ちが弱々しくなっている。
 いろんなことが怖くなったり、何をどう楽しんでいいのかわからなくなったり、あるいは生きる気力がなくなったり。どうでもいいや、死んでも生きても。なんのために生きてるかわかんない、みたいなことになります。
 
 これは今という時代が、誰でもそういうふうに生きる力を弱くさせている要素をはらんでいるからだと思います。
 人間の本来の姿は、ものすごく活力があって、いっぱい働きたくて、いっぱい楽しみたくて、それで、人のためにもいっぱい尽くしたいっていう気持ちが溢れているんです。ところが、そんな人ほど、あれをしちゃだめ、これをしちゃだめ。「何のために生きてるの」「お金のためよ」なんて言われて、「は?」って思ったら、もう生きる気力をなくしてしまうものなんです。
 お金がないと幸せになれないよ、子供のうちから準備しなさいと言われてるうちに、自分の楽しみな気持ちとか、やる気とか生きる気持ちをどんどん削がれていって、もう、病気になってしまうか、死んでしまいたくなるか、そこまで気持ちが落ちてしまいます。
 

 そういうときにね、変な話、人を殴るとか、動物を殺すとか、何かを捕まえる、逃げる何かを捕まえる、弱い者いじめをするとかね……あら、今、弱い者いじめをするって言っちゃった? そういう乱暴な、野性的な、理性的でない行為って、ある種、人間の本能的な欲求なんですよ。本能的な欲求の捌け口がどこにもなくて、勉強や習い事ばかり強要されて、本能を閉じ込められていたら、もう爆発的に一番、手近なところでそういう理性的でない野蛮な行為が噴出してしまう、ということなんですよ。
 だから、そういう自分の持っている野性味を歪な形で出さないためには、何か別のことで、そういう自分の野性味を刺激するようなこと、満足させることをやってしまえばいいんです。

 それが、例えば、釣りみたいなものでもいいですよね。釣りは見方を変えれば、罪なき魚達の大量虐殺ですよ。生きているのを強引に陸地に引っ張り上げて殺すんですから。これは、自分の中の本能が、超満足! というくらいワクワクしますよ。
 それと、まったく効率とか、能率とかと無縁な、アートをすることですね。
 ただ奇麗というだけで、何の役にも立たない。アートって。一見。経済的な観念からはほど遠いです。だけど奇麗という意味では、美しいという意味では、価値があるんだけど、経済的にはなんの効果もない。あなた、それやっても何のお金ももらえないよ、と言われるようなことでも、美しいというものを。人間本来の喜びが沸き立ってくるようなことをやると、本能が充足されてくる。満足する。そういうことにつながってくるのかなというふうに思いますよね。
 

 そういう意味じゃスポーツもそうですね。
 人を殴れば殴るほど、褒められる人がいます。ボクサーですね。殴れば殴るほど、相手を倒してノックアウトしたらお金いっぱいもらえて、みんなから拍手をもらえる。
 人をねじ込めて、ぐうぐう言わせて動けなくして得意になってる人もいます。レスラーですね。
 スポーツなんかもそういう意味じゃ、人間の本能を満たすような要素というのがあるんでしょうね。
 だから、自分の心を開放すると言う。
 スポーツ。スポーツって、語源は、ポートなんです。港です。Sは「解き放つ」の、接頭語なんですね。港から解き放つ。港というのは、親とか学校で、みんなは港に繋がれた船です。で、港に繋がれた紐を切って、親の支配も受けない、先生の支配も受けない、誰の支配も受けない大海原に乗り出す。そんなふうに開放されることがスポーツなんです。
 大海に漕ぎ出して、何があるかわからないけど、わくわくすることが待っている。それがスポーツの語源です。心を解き放つ。そのためにスポーツをする。だから、スポーツじゃなくても、時々何か、心を解き放つことをすればいいんです。
 

 例えば小説でも、本を読んで、頭でその小説の世界にどっぷり浸る。現実世界から離れると、心を解き放たれますよね。そのかわり、本を読む力、文章を理解する力、イメージを膨らます力のある人だけがそれを楽しめる。本を読む集中力が無い人は、本の世界に入れないですよね。
 それも、自分の野生を取り戻す方法の1つです。本を読んで野生味を取り戻す。そういうことでもできると思いますよ。必ずしもスポーツ、身体を動かすことだけじゃなくてね。
 いろいろ話してきましたが、自分の心に野性味を取り戻したら、無意味な怖さはなくなっていくと思いますよ。

 

 

(2018年10月26日掲載)









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第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
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