第39回『シロバナタンポポ』
その昔、早春の野原で男の子たちが遊んでいた。
1人の子が芽生えたばかりの葉を見て言った。
「あ、タンポポが出ている」
他の子たちはそれを見て、口々に反論した。
「嘘、言うな」
「こんな小さな葉で、タンポポかどうかわかるものか」
男の子は答えた。
「この葉はタンポポの葉だよ、僕にはわかる」
他の子たちは、挑戦的に言った。
「じゃあ、みんなで覚えておこう。これがタンポポかどうか」
やがて、その小さな葉が大きくなり、
中心から伸びた茎に花をつけた。
「ほら、みろ。やっぱりタンポポじゃなかった」
見れば、白い花を咲かせている。
「タンポポなら、黄色い花のはずだ」
確かに形はタンポポだが、白い花――。
それはシロバナタンポポだった。
男の子は思った。
知らなかった。
白いタンポポがあるなんて……。
自分は植物に詳しいと自惚れていたが、
もっともっと勉強しなければならない。
やがて男の子は江戸期を代表する本草学者に成長した。
白いタンポポを見る度に、
その逸話を思い出す。
ただそれが、「大和本草」の貝原益軒だったか、
本草学者の平賀源内の幼い日のことだったのか、
忘れてしまった。
〈撮影場所:選果ハウス周辺〉