第127回「アーティスティックな心」

【質問】
 ギターについて
 私は、まだ一度もギターを弾けたことがありません。
 12月16日のウィンターコンサートでは、弾きたいです。そのために、心がけること、やるべきことは、以下のことで合っていますか。
 

 ①毎日練習する。正しい音、正しい形、指の動き、力の入れ方で、1フレーズずつゆっくり、1000回繰り返す。
 ②常に文化ホールのステージ、満員の客席をイメージする。
 ③日々、目の前にあること一つひとつに、真っ直ぐに向かう。
  教えていただけると嬉しいです。
  

 

【答え】
お父さん:
 ということですけどね。なるほどね。
 まだ一度もギターを弾けたことがない。なんか、わかる感じがしますよね。この人はステージで上手にギターを弾ける人です。高いレベルでのことなんですね。
 僕も20年以上、原稿を書いていて、原稿が書けたなと思ったのは1回くらいしか無い、という感じがします。
 ちゃんとやりたい、ということです。
 ギターをちゃんと弾こうとすると、今のはあそこが失敗だったな、今のはここが駄目だった、というふうに思って、パーフェクトというのはなかなか無いんです。
 うまくなるほど、パーフェクトというのはだんだん無くなっていく。
 他の人が聞いて、いや、パーフェクトなんじゃないのと言っても、自分がちょっとミスまでいかなくても、パーフェクトじゃなかったというのを知っている。もっと上があると思っちゃうと、違うと思ってしまうのです。
 

 で、ここに、「毎日練習する。正しい音、正しい形、指の動き、力の入れ方を」何回繰り返すかはともかく「毎日弾く」というのは、これは大事だと思うんです。
 毎日ちょっとの時間でもギターに触れて、指に覚えさせる。身体に覚えさせるというかね。
 バレエなんかでよく言うのは、1日バレエの練習を休むと、自分がわかる。1週間バレエを休むと、コーチにわかってしまう。1か月練習を休むと、観客がわかる。そんな言葉が、あります。
 休まないでやるというのは良いことだと思います。
 あと、イメージ。満員の観客をイメージしながら練習する、これも大事ですよね。
 「日々、目の前にあること一つひとつに真っ直ぐ向かう」これも大事だと思うんですけどね。
 ギターの演奏は、やっぱりアートだと思うんですよね。
 しばらく前のテレビ番組で、いまはあるかどうか知りませんが、ピアノの上級者に超有名なピアニストが教えるという番組がありました。
 教えてもらう人は、ものすごく上手に弾ける人です。最初にその人が弾くと、うまいなと思います。
 ところが、その演奏に対してプロの演奏家が「ここはこうだし、例えばここはこんなふうに」とやってみせたら、これが全然、違って聞こえる。
 その人が、言われたとおりやってみると、演奏がガラッと変わる。ものすごく面白いですね。
 「それ違うのよ」と全部否定される。ちゃんと弾けてるのにね。
 それを見ると、本当に上があるんだなと思わされます。ピアノに関して素人の僕が聞いてもすぐわかるくらい、彩り豊かな音楽になる。
 音のメリハリが付いていくというか、世界が広がっていく感じ。ただのピアノの音だったものが、音楽になっていく感じ。
 もうね、すごいなと思うんですよね。
 

 じゃあ、プロの演奏家と、そうじゃない人の違いは何か。つまり、プロとただ上手に弾ける人の違いは何か。
 心の中の、山がどれだけ高くて、谷がどれだけ深いか、という違いだと思います。心の中に凸凹が付いてる人と、心が平板な人の違いなんじゃないかなと思うんですよね。
 人が良い人生を送ろうと思ったら、誰にも必要なものがアートだと思うんです。
 彩り豊かな人生を送るためにはアーティスティックな、アートのような心が必要だと思います。
 僕は、ダンスのことは本当はよく知りませんよ。音楽だって本当はよく知りませんよ。でも、なのはなファミリーで演奏やダンスをするときは、どんどん、ああでもない、こうでもないといって、みんなの演奏を直していったり、ダンスを直していってます。すると、やっぱり日々、良くなっていく。それは音楽のこと知ってるとか、ダンスのことを僕が知ってるかどうかではなくて――それは多少は知っていますけど――心の中の山と谷を、みんなよりもつけようと思って生きているからなんじゃないか、と思うんですよね。
 

 何ていうんだろうな、見た瞬間に、日常の延長上のダンスはつまらない、と感じます。日常の延長上の演奏というのは、アートじゃない、つまらない。人に聞かせるものじゃない。
 なのはなのダンスとか演奏は「もうセミプロだね」ってよく言われます。みんな踊ったり、演奏してるけど、みんなは素人です。それでも、向かってるところ、目掛けてるところ、踊ってるみんなの心の中にあるものは、素人ではないんです。もっと上、もっと上、と目指しながら、演奏している瞬間は、日常を離れた異次元の表現を心がけているから、普通と違うなっていう感じを、見る人に与えることができると思うのね。
 

 だから、この人も本当にギターを上手く弾ける人になりたいんだったら、やっぱり心を豊かにしなきゃならない。
 心に鮮やかな彩りをつけていく。そんな生き方をする。その心の彩りが音色に出るんであって、心に彩りがないと、ギターの音色にも出ません。心なんです、最終的にはね。
 で、その心も、本当に一番最終形というのは、もう、何て言うんだろう、常軌を逸した奇人変人の、ちょっと手前まで行くくらいだと良い演奏家なんですよね。そのくらい、非日常的な発想のできる人というか、非日常な感性を持てる人になっていくのが上達のコツです。
 

 あるいはステージの上でギターを弾くとき、あるいは自分で練習してギターを弾くときだけ、いつもの自分とは違う別人になってしまうというかね。その人がギターを練習してるときに、ちょっと怖くて声がかけられないくらいのオーラが出ている、あるいはバリアが出ていて、非日常な精神状態と、肉体と指と、存在となって練習するというか。そういうことだと思うんです。
 いい意味での非日常にする、ということです。
 アーティスティックな意味で非日常にしていく、そういうことが大事なんじゃないかなというふうに思うんですよね。
 美しい音色、桁外れに美しい音楽、それは桁外れの心にしか宿らないからです。
 だから、芸術家って、どこか、たまに、普段の生活も日常から外れてしまって、奇人変人の領域に入る人も多いですけど、でもそのくらいの人のほうが芸術家としてはすごく良いものを作るところがあるんじゃないかなと思う。ね、お母さん。
 でも、僕らは、日常生活からあまり逸脱していないけど。
 

お母さん:
 え? 逸脱してるんじゃない?
 

お父さん:
 確かに、逸脱したがってるようなところはあるのかな、とは思う。

 

 

(2018年10月23日掲載)









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第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
こちらからご覧いただけます!
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