第116回「自我を育てる」

「自我」「自我を育てる」の意味を教えて頂きたいです。
 調べてみると、自我とは「自分。自己。意識や行動をつかさどる主体としての私」とありました。 

【質問1】
 摂食障害の人は、「自我がない」つまり「自分がない」=人や両親の意見や顔色をうかがって決めてしまう。あるいは決めること自体苦手ということでしょうか?
 

 

【答え】

お父さん:
 家族がばらばらになるのが怖い、という傷を受けた5,6歳のころから、両親がトラブルにならないように、喧嘩にならないように、みんなに仲良くするようにという願いで頭がいっぱいになりながら、お母さんが穏やかになるように、お父さんが穏やかになるようにと気持ちを汲んで生活するようになります。

 お母さんが笑顔だと安心する。ちょっと尖った空気があると一生懸命おどけたり、あるいは気を遣ってお母さんを和ませる。つまりユアペースなんですね。マイペースじゃなくてユアペース。お母さんの言ったとおりにすると言うよりも、むしろ先にお母さんの気持ちを汲んで、怒った感じ、尖った感じにさせない。汲んで汲んで、汲みすぎるくらいのユアペースで生活するようになるんですね。

 ただ言われたとおりに守るということじゃないんです。自分は二の次、三の次にしてしまう。
 自分が何が好きかもわからなくなってしまう状態。というのが自我のない状態というふうに言って良いんじゃないでしょうか。
 顔を伺って決めるというよりも和ませたい、喜ばせたい、そういう気持ち。学校に行くと先生が怒らないように、友達が怒らないように、そういうふうに気持ちを汲みすぎる、ということが言えるんじゃないかと思います。

 そんなふうにして思春期まで育ってしまったら、自分が何者かわからない、自分の好みもわからない、というふうになってしまうのです。
 

 

【質問2】
 お父さんは、「4~6歳位から、自分を育てる(自我を育てる?)」とおっしゃいますが、これはここで農業やダンス、スポーツなどをみんなでやりながら自我を育てることができる、という理解で正しいですか?
 自我はどうやって育っていくものなのか、育てていけばいいのでしょうか?
 自分がいまここですべきことをもう一度、理解したいです。

  

【答え】
お父さん:

 そうですね、農業やダンス、スポーツというものは、学歴社会の中では、入学試験にあまり出ないですよね。だからそんなことは無駄である、あるいは自分の評価につながらないことは無駄である、という感じで、知らず知らずに評価につながらないことはしないで生きてしまうんですね。そうすると、偏差値の中でしか、自分の価値がわからなくなってしまいます。
 常に評価の対象の中にいる、常に相対的な価値しか自分に感じられず、絶対的な自分の価値をいつまでも知らずにいる、ということでも自我は育ち難くなると思います。

 そうなってくると、ここで農業を真面目にやろうという気はしないですよね、最初のうちは。いくらやっても、自分の評価につながる気がしないからです。
 作物は、種を蒔いてから収穫できるまでのスパンがあまりにも長いです。良い作物がとれるかどうかは、手入れの善し悪しもありますが、天候任せのようなところもあります。それでは、仮に懸命にやったとしても自分の手柄にはなりにくいと思ってしまいます。
 ダンスもそうです、音楽もそうです、スポーツもそうですよね。
 要するにこれまでの、学校でやってきた評価対象とは無縁のことを、ここでやっています。

 でも、評価にはならないけれど、例えば――もうすぐみんな経験しますけど――サツマイモを収穫するときのワクワクするような喜びは、あります。
 大きいサツマイモを収穫する。嬉しいですよね。今年の夏はキュウリを収穫して嬉しかった、なんてみんな言っていますけど、そういう喜びは内側から湧き上がってくる喜びですよね。

 自分はこういうことが嬉しいな、こういうことが楽しいなという、本当に根源的な嬉しさ、喜び、楽しさというものを、評価から離れたところで掴む、体験することによって、自分の生きる喜びとか、そういうものを取り戻していく。自分のやりがいとか面白さというのを取り戻していく、それが自我を育むということなのだと僕は思っています。

 「面白い」って簡単なようだけど、結構難しいんですよ。喜ぶこと、面白がること、嬉しがることって意外に難しいんです。
 それが、こういう、なのはなでやってるような活動を通して、自分がやってることの楽しさを味わうということが目的です。
 

 崖崩れ畑の下に、ビニールハウスが3つ4つ並んでいますね。しばらく前のことになりますが、その前の畑に耕運機をかけて耕した後、鍬で畝を作っていた。何人かでね。
 そのとき、畝を作ってた人が本当に楽しそうに作ってるのね。にたにた、うひひ、うひひって聞こえそうなくらい嬉しそうに作っている。
 何そんなに嬉しいのかなと思ったら、
「お父さん、私おかしいでしょうか。今まで経験したことがないくらい、すっごく楽しいんですけど、おかしいですかねこれ。楽しいことじゃないはずなのに、楽しくってしょうがないって変ですか?」
 変じゃないよ、って言ったんだけどね。「何でしょうね、これ。真っ直ぐに畝を作るだけで楽しい」と。まさにそういう感覚を味わってもらいたいなと思うのです。根源的な自分の喜びを知るというところから、自我を作っていくのだと思います。

 畑作業をしていると、収穫はもちろん楽しいですが、畝を作っていても良い作物を作ることをイメージしながら労働する歓びが感じられます。
 それは、誰かから、楽しんでねと用意してもらった楽しさではなくて、自分の内側から沸き上がる根源的な歓びだと思います。
 音楽やダンスをやっていても五感で歓びを感じるし、スポーツも理屈を越えて対戦を楽しむことができます。

 毎年、なのはなファミリーのコンサートでは高いレベルのエンターテイメントを本格的な大ホールで満員のお客様に楽しんでもらっていますが、お客様以上に私たちが演じることを楽しみ、踊ることを楽しみ、それぞれが自分を最大限に表現しています。
 そういう体験を通して、それぞれ仲間の大切さを強く感じます。そして自分の役割や責任も強く感じます。責任をやり遂げて、みんなで素晴らしい舞台を成功させたとき、個性ある仲間の大切さを感じると同時に、自分のやりがいや、自分の価値を実感します。そういうことを通してそれぞれの自我を育てていく、と考えています。

 

 

(2018年9月14日掲載)









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第72回「小さいころからの恐怖心」
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第207回「調理されて食べられる魚はかわいそう?」
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第211回「期待について その②」
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第217回「声を前に出して歌うには」
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第220回「握力について」
第221回「喜び合うための全力」

第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
こちらからご覧いただけます!
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