第112回「芸術、情緒、愛情 心の深さ」

【質問】
 芸術的な気持ちと、情緒や愛情、心の深さは、同じですか。

 

 

お父さん:
 どうでしょうね……、同じと言えば同じ。同じでないと言えば、同じでない。そんな感じだと僕は思います。
 この質問に「芸術的な気持ち」と、「情緒」と、「愛情」と、「心の深さ」が並んじゃっていますけどね、例えば、うな丼と牛丼とカツ丼を同時に食べたい場合には、何屋さんで食べたらいいと思いますか? みたいな質問に感じますよね。うーん、それは伊勢丹百貨店の食堂がいいかなあ、とかね……、鰻屋さんで牛丼頼めないだろうしなと、そんな感じがちょっとしちゃいますよね。
 

 芸術的な気持ち……。芸術を作るというのは、まあ、例えば、絵とか、それから、石のオブジェとか、ありますよね。いろんなジャンルがある。
 良い芸術って、なんだろうかなと言うと、やっぱり何か斬新な驚きとか、強烈な印象を見る人に与えつつ、何か……この世の真実というか、人生の真実、まことというかね。本当のところを、伝えてくれるもののような気がしますよね。
 で、その、人生の真実とかというものは、時代が変わっても、場所が変わっても、変わらないような、普遍的な価値である、ということも言えますよね。
 だから、日本では高く評価されている芸術が、アメリカでは全然評価されないとか、ヨーロッパでは評価されないとか、そういうことはなくて、むしろ時間が経って時代に鍛えられると、良いものはどんどん評価が固まっていく、評価が高くなっていく。
 
 なんで芸術作品が良いかと言ったら、それは、色褪せない価値を含んでいるというのを、色んな人が見て、感じる。それが50年経っても、色褪せないなというふうに思えたら、これは確かな価値があるだろうということです。
 だから小説なんかも、50年経ってからでないと大学では論評しない。日本文学とかでも、時代が経って、評価が固まったものしか授業で取り上げない。書かれたばかりのものは評価が定まっていないので研究対象としない。それは何かと言ったらやっぱり、時代に鍛えられて、この価値は色あせないなというのが確定してないからですね。時間が経ってようやく芸術的な価値が決まってくる、定まってくる。誰もが確かな価値があるとわかるまでには、時間がかかるんですよね。
 

 で、次に情緒についての話ですが、情緒が深いとか、情緒があるとか情緒がないとか、この「情緒」というのは、心の襞というか、瑞々しい心の感受性の豊かさを感じさせるもの、そういうものだといっていいでしょうね。
 
 さらに「愛情」と言うと、急に高級な感じがしてしまいますが、曖昧な愛情にとらわれすぎると間違うことが多いと思います。
 いつも言っていますけど、愛情とは、理解し理解されること。愛情深い人というのは、人のことを理解する力がある人――つまり、深くて、広い心をもった人ということですね。愛情深い人は、相手の心の中をすべて隅々まで理解して、共感できます。そういう理解力を持ってる人は、愛情深い人ということになる。単に優しい人というのではなくて、知的に理性的にこまかなところまで相手の気持ちをわかってあげられるかどうか、ということが大事なんです。
 
 で、最後に「心の深さ」となると、まあまあ、心がうんと深ければ深いほど、愛情深い人ということも言えるんでしょうね。理解力が浅ければ、相手のことを浅くしか理解できない。そうすると愛情が浅いということになってしまいますからね。
 

 そういう意味じゃ、質問に挙げられた4つは、それぞれ似ているところはありますが、やっぱり今こうして喋ってみて、「芸術的な気持ち」と言ったときに、「愛情」と横並びにしちゃうと、どうなんだろうかなあっていう感じは残りますね。

 「愛情」というのは誰かを対象にして、その人を理解する、理解し合うというのが愛情ですけど、「芸術」というのは誰かを対象にというよりか、世の中全体を相手にすることになっちゃって、世の中全体に向けての真実の深さ、それを訴えるものですからね。
 しかも、絵なら絵で、どこの誰兵衛がどういうつもりでその絵の前に立つかわからないけれども、この絵を見たら感動するだろう、というものを表現しなきゃならないわけですからね。これはまたちょっと愛情とは違う、そういう要素が求められる。もっともっと哲学的な要素を求められるものだと思います。愛情といった場合には相手を理解し切る力ですから、もしかしたら哲学的な要素というのは、無くていいかもしれない。
 そんなふうに思います。
 

 ただ、数学なんかの難問を解くときに、「x2+y2=z2」みたいな、これを証明するというのは非常に難しかったんですけど、この証明をするときに、最も美しい曲線は放物線であるということがヒントになっていたりしたので、美しいってなんなんだよ、数学と関係あるのかよと思っちゃうけど、究極のところは全部が集約されるのかもしれません。
 意外と、究極の芸術と究極の情緒と究極の愛情と、究極の心の深さは全部イコールだった、そういう事はあるのかもしれませんよ、ということを言っておきます。

 

 

(2018年8月31日掲載)









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第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
こちらからご覧いただけます!
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