第104回「何者にもなれないのでは、という不安」

【質問】

 私は、自分が何者にもなれずに人生が終わってしまうのではないか、という不安をしばしば抱きます。
 だから、少し必死すぎる自分が周りに露出してしまっても、自分を追い込んだ方がよいのではないか、という考え方になります。
 お父さんは、このことについてどう思われますか?

 

 

お父さん:
 自分が何者にもなれずに人生が終わってしまうのではないかという不安、これは多くの若者が味わうものでしょうね。
 特に一生懸命に生きている若い人は、そういう不安が出てくることでしょう。
 まだ就きたい職業が決まっていないとか、大学などの志望校が決まっていないという人は特にそうかもしれません。
 何者にもなれずというのはつまり、あまり大したことをしないで人生を終わってしまうんじゃないか、そういう不安ですよね。

 20歳前後になってくると、本当にこのまま人生が終わっちゃうんじゃないかという不安を感じるというのは、ある意味、懸命に生きている人だと思います。
 それが60何歳と言ったら、もうあらかた人生の山を越えています。なんというか、人生におよそ白黒ついている。
 考えてみれば、何事もしないで人生終わっちゃったんじゃないか、というとおかしな言い方ですけど、やっぱりいますよ。います。
 今の時代だと、一生、フリーターで終わっちゃう人もいるかも知れない。一生、派遣社員で終わるとか。その人は何事か成したんでしょうか、成してないんでしょうか。
 例えば学校の教師とか公務員で、その後ちょっと勤めたり講師をやって、それは人生でなにか成したんでしょうか、成していないんでしょうか。
 現実にはそういう人がほとんどです。
 でも、この質問者は、それでは嫌だな、と思っている。
 この質問をくれた人が、もしも公務員になったとして、そのまま定年退職を迎えたら、場合によっては何事も成せなかった、と思うんじゃないかな。
 これがもしかしたら結婚して、子供を生んで、子供が大きくなったら、またちょっと感想が違ってくると思う。
 夫と協力して、子供2人を大きくして大学にやったとか。
 子供3人を大きくして子供が自立した。それだけでも、何事かを成した気にはなると思います。それで満足できない人もいると思う。それは何の違いでしょうか。
 言い方はいろいろあるでしょうけど、その人がどんな大きな人生プランを持ってたのかとか、あるいはその人のスケールが大きいか小さいか、で違ってくるでしょう。
 まあ、端的に言ってスケールが大きい人が、目に見える実績を上げないまま定年退職まで行ったとしたら、ちょっと、不満足な感じを覚えるんじゃないでしょうか。何事も成さないまま人生が終わっちゃったなという、残念な感じを覚えるかもしれません。
 スケールが小さな人で、自分もあまり勉強が好きじゃないなとか、リーダーシップもないと自覚していた人が、公務員になって定年退職までこぎつけたら、ああやったな、成功した人生になったと思うかもしれない。
 しかも子供がものすごくいい大学に入った、有名企業に入った、あるいはステータスの高い職業に就いた、そんな難関を勝ち抜いたら、なお達成感があるかもしれません。

 そういうことを踏まえて僕が思うには、……これはちょっと、嫌な言い方になってしまうかもしれませんけど、人それぞれ、仮に、持って生まれた運命というのがあるとしたらどうなんでしょうか。持って生まれた運命というのがね。
 何か、何事かを成すように、大きな役割を背負ってきているような運命の人と、あまりそうでもないような運命の人が、もしかしたらいるんじゃないかなという気がするんですよね。

 さらに「運命」というのを別な言葉で言うと、ちょっと意外な言葉かもしれませんが、「思い込み」といっていいのかもしれませんよ。
 思い込み、これはほとんど運命です。
 僕は物書きとしてやってきました。暫くの間、20年以上ね。
 その時、僕が同僚のジャーナリスト、先輩のジャーナリストたちと話をしたり聞いたりしていく中で、思い込みの強い人は強いな、勝つな、というふうに思いました。正義感でも思い込みですよ。
 で、僕自身はどっちかというと思い込みが強い方でした。
 同じ世代の人、歳が上の人や下の人を含めても、僕は思い込みがすごく強かったです。
 思い込みが強いと、なりきれるんですよね。
 

 じゃあその思い込みの強さは何なのかというと、やっぱり持って生まれたもののような気がするんですよね。
 僕はあるとき、先祖に感謝しました。またあるときは、先祖を恨みました。
 感謝するときというのは、思い込みと気の強さが功を奏して何かいい仕事ができたときで、こういうときはこんな自分を作ってくれてありがとうと先祖に感謝するんですよ。
 ところが、あまりうまくいかないとき、この思い込みの強さ、気の強さが邪魔をして、逆に普通の仕事では物足りなくて満足できなくて欲求不満だらけになって、嫌な星のもとに生まれたなと思います。
 だけどトータルとして考えてみて、気が強くて思い込みが激しくて、大言壮語を時として口にして、できることもあればできないこともあったけれども、少し大きめ大きめのことを自分に課してやってきて、大正解だったなと僕は思いますね。
 だから、そういう生き方をすれば、ある程度、その、何者かにはなれるんじゃないでしょうか、ということですよね。

 この人が、「少し必死過ぎる自分が周りに露出してしまっても、自分を追い込んだほうが良いのではないかという考え方になります」というのは、非常に理解できるし共感できる部分もあります。
 だけど改めて、「お父さん、このことについてどう思われますか」ときかれちゃったらね。
 なんていうんだろうな。うんと……自動車に例えると、アクセルのふかし過ぎというのは良くない。ふかし足りないというのも良くないんです。自分の運命に見合ったスピード感というのが大事なので、露出しすぎて周りから浮くというのは駄目なんですよね。なんていうか、周りの人が応援しようという気がなくなってきますからね。
 どちらかというと、ちょっと頭一つ出ているけれども、ちょっと背中を押してあげたいなというレベル。
 ダッと走っていって、勝手に行け馬鹿野郎と言われちゃったらおしまいですね。
 露出し過ぎはだめですよ。みんなが応援したくなるくらいがちょうどいい。
 行き過ぎはだめだと思いますね。
 

 流れが大事です。流れに身を任せすぎないけれども突出しすぎない。流れに逆らうような泳ぎ方はだめでね、適度な加減が大事なんじゃないかというふうに思います。
 だけどときどき、アクセルを踏みすぎても緩めすぎても、自分の運命を信じていたら、結構いいんじゃないでしょうかね。
 僕は自分の運命を信じてきましたからね。
 前にも話しましたよね、新しい人がいるので何回でも言いますが、僕は子供の頃から母親に何回か同じことを聞かされてきました。
 姉と弟の3人兄弟でした。母は、こう僕に言ったのです。
「1人目を生むときは生むのに精一杯で何も考えられずに生んだ。お前を生んだときは、この子はきっと世の中で役に立つ、そういう人間になる、と願いながら生んだ。3人目は惰性で生んでしまった。だけどお前だけは、世の中で役に立つ人間になるって強く願って生んだから、きっとお前は世の中に貢献する人間になるよ」
 僕はそれを聞いて、嬉しいような、困ったような。何か1つ、人に役に立つって言えるようなことをしなきゃいけないんじゃないか、というノルマを背負わされた感じもしました。そういう意味では、何者かにならなきゃいけない、という役割を常に意識してきた気がします。
 
 僕は物書きとしてそれを実現しようとしましたけど、結果的に途中からなのはなファミリーになりました。これが本当に僕が世の中に貢献することの最終形とは思いませんが、ただ言えることは、他の誰でもやれることじゃないことをしている、多少は、僕じゃなきゃやれないことをやった部分というのはあるのかな、と。
 なのはなのお母さんという良い伴侶にも恵まれたお陰でもありますが。
 
 でも、まだ全然終わってないですからね、自分の人生は。まだたくさん夢がありますから、次の夢に向かって頑張らなきゃいけないんですけど、そういうことだと思います。
 自分には世の中で果たすべき役割がある、何者かにならなければいけない、そう思い込んでください。そして、ほんとに実現してください。今はそれが何かわからなくてもいいです。そういう思いを抱きながら生きていく姿勢が大事だと思います。

 

 

(2018年8月3日掲載)









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第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
こちらからご覧いただけます!
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