第86回「過去を美化してしまう」

【質問】

 その時は苦しかったのに、過去を美化して、「あのときは良かった」と思ってしまうのは、どうしてですか。今を苦しくして、今が過去になると、なぜか、あのときは良かったとしてしまい、そのときの今を苦しいものとしてしまいます。
 自分の答え:現実から逃げる気持ちの表れ。

 

 

お父さん:

 僕は、これを読むとすぐに思い浮かぶのはですね。なのはなファミリーに来た人の中で、2週間くらいしてから、「もうこんなとこは嫌です、ぜひ帰らせてください」と言うときのことなんですよね。
「なにか嫌なことあった?」ときくと、
「ここに来て良いことなんか1つもないです!」とか言ってね。
「あれ? 泥んこ相撲のとき、結構笑ってたし、笑顔で走ってたよね、泥の中で」
「いや、あれは本当はやりたくありませんでした。つまらなくてしょうがないけど、走ったほうが良いのかな、笑ったほうが良いのかな、と思って無理して笑っていました」
 全然、そうは見えなかった人がそう言うんです。「無理してやっていたのであって、本心ではありません。全部嫌な思い出しかないんです」と言うんだね。
 いろいろ話して一晩経ってから、
「やっぱりここにいます」
 というのでどうしてだろうと心配になってこう尋ねます。
「でもここにいて、今までは辛いことしか無かったんだよね」
「いや、お父さん、あれは嘘でした。本当は、なのはなで何をやっても楽しかったんです、ここでは楽しいことしかありません」
 過去の記憶というのは自分で、全部苦しかったものにもできてしまうし、同じことを楽しかったことにもできる、意外と簡単に全部を塗り替えることができるものなんだな、ということを何人も何人も、目の前で見てきました。

 だから、「楽しかった思い出」なんていうのも、今は素直な気持ちで聞けなくなってしまいました。苦しかった思い出というのも、素直な気持ちで聞けなくなってきてね。それはまた、立場が変わるとぜんぜん違う言い方をするんじゃないか、と相対的なものにしか思えなくなってしまうのです。
 記憶とか、思い出には、そういうところがありますよ。
 だから、過去を美化して、「あのときは良かった」なんていうのは、やっぱり、今と対比して思うっていうことが、あるんじゃないかと思います。
 だから今が苦しかったりすると、あのときは良かった、と逃げる。
 

 それとね、もう1つ、全然別な感じ方、考え方というのがあるんですよ。
 一般論に毒されてすぐ一般論に乗ってしまう人は、簡単に、良かったもの、楽しかったことを作れる傾向があります。例えば、焼酎のテレビコマーシャルで、小学校以来の同級生と焼酎を飲んで、おそらくは毎晩のように語り合っているといった場面がありますよね。
 「あの頃は良かったよな!」って自分たちの小学校の時代の話を、さもさもよかったように話す人がたくさんいるようなイメージがあります。
 だけど、現実はそんなことないというかどうでもいいというか、昔のことを年中、しゃべっていたって楽しくなんかないですよ。そういうものだと世間では言ってるから俺たちも言っとこう。そういうレベルだと僕は思ってます。

 で、僕が思うにはね、現実は、一番楽しいのは「今」ですよ。今日ですよ。
 一番苦しいのも今ですよ。今日ですよ。
 それで、もっと楽しいのは明日ですよ。
 もしかしてもっと苦しいのは明日かもしれない。
 過去なんかどうでもいいです。そう思うことが現実を生きる、いい生き方なんですね。
 

 今を楽しんでる人は、過去の楽しかったことを言わないです。思い出さないです。
 一生懸命生きてる人は、いま何するか、明日何するかです。
 過去のことばかり言ってる人は、もうすぐ死にますよ。
 おじいちゃん(盛男さん)はまだブドウの接ぎ木をどうするかという話をしています、さっきもね。過去の話じゃない。「小野瀬さん。根がつきましたよ」「あれをどうするかな」と――。過去じゃないんだよね。いつも、今の話しと、これからの話しばかりをする。
 

 人間の脳みそって1つのことしかできないんだってね、人間の脳みそはね。
 いつも。
 そうそう、スマホを持ってる人というのは仕事も勉強もできなくなるって言われています。
 実験的に――これはほんとか嘘か知りませんよ――実験的に、1つめのグループにスマホを机の上に置いて暗記ものをさせる。2つめのグループには、スマホをポケットの中に入れてもらって、同じように暗記ものをしてもらう。3つめのグループには、スマホを別室にしまって暗記ものをしてもらい、3つのグループに暗記テストをやってみたのです。
 そしたら、スマホを別室に置いた人の点数が一番高い。
 スマホが机の横に置いてあった人は極端に点数が低い、ということなんですよね。
 なんでかっていうと、人間の頭って1つのことしか考えられないので、スマホが鳴るかもしれないなと思うだけで、脳の働きが4割減5割減となり、そこで暗記をするから覚えられないのです。
 スマホが鳴ったりラインが来たら反応しようと思いつつ勉強するのと、スマホが別室にあって反応できない状態で集中するのとでは、大きな差ができるのです。
 それくらいスマホって害があるらしいです。人間の集中力とか暗記力とか関心を、そいでしまう。もいでしまう。減らしてしまう。そういう悪い効果がありますよ。
 

 で、話戻しますけど、例えば過去のことを思い出すっていうときね、いいですか? 過去に頭を向けてるわけです。
 その間は、今のことと未来のことに向いてないんです。頭は1つしか使えないのですから。
 じゃあ、あなたは、過去に頭を向けるのと、今に頭を向けるのと、未来に頭を向けるのと、どっちに向けるのがいいと思いますか、ということになっちゃうんだよね。
 ここに、「現実から逃げる気持ちの表れ」って自分で答えていますけど、過去に頭を使うっていうことは、現在と未来に使ってないということ。イコール、現実から逃げてる。この人の思った答えでここは当たってます。
 だから、もっと言うと、遠い先の未来のことだけしか言わない人。これ一見いいようだけど、現実を考えてない。これも逃げかもしれないね。時々いるんだよね。案外に多いのが、「私、フライトアテンダント(スチュワーデス)になりたいんです。きっとなります!」という人。もっと今を見なさい。「だってお父さん夢を持てって言ったじゃないですか」それは現実逃避――。
 苦しかっただろうが、楽しかっただろうが、過去を考えたり、過去を美化したり、過去を持ち出したり、あるいはあまりにも先の有り得ない未来を持ち出したりしないで、ほんとに正しくは、今を楽しんで、今を苦しんで、今を生きる。今に頭を使う。それが正しい生き方です。
 ということだね。

 

 

(2018年6月1日掲載)









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第1回から第65回までの「お父さんにきいてみよう」は、
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