脚本で旅する なのはなファミリーウィンターコンサート Part5

下手から、十字架を背負った4人がゆっくりと、歩いてくる。
兵隊が2人ついている。

光太郎:
(兵隊に向かって)……ここは、どこですか。

兵隊1:
ゴルゴタの丘、というところだ。

えりこ:
ゴルゴタの丘? どこかで聞いたことがあるような……。

兵達たちは、十字架を立てて、立ち去る。

光太郎:
えりこさん、ごめんよ。君を守ることができなくて、本当に、済まない。
こんな、ローマ帝国なんて、来なければよかった。

えりこ:
ううん。いいの。
短い間だったけど、光太郎さんとエビ天さんとの時間は、楽しかった。
日本を救おうと思って動いて、こうなったんだもの、私は悔いはないわ。

エビ天:
なんでこんなことになるんだよぉ……。

光太郎:
(上手の男性に)あなたも、スパイ容疑で処刑されるんですか?

男:
いや、私は宗教家なんだ。みんなに、本当の人生の意味を教えてきた。
みんなは、幸せになりたがっているんだが、その方法がわからないんだよ。
私は、イエス・キリストだ。

3人:
イエス・キリスト?!

光太郎:
それじゃ、あなたも僕たちも、本当に、処刑されてしまう!!

キリスト:
いや、私は処刑されても3日後にまた復活する。
君たちは、もし助かりたいなら、私ではなく日本の神様にお願いするといい。

光太郎:
ああ、助けてください。神様!

えりこ:
仏様!

3人:
(大きな声で3人そろって)七福神さま!!

 

演奏  トゥトゥキ
   ―― テ・ヴァカ

【編成】ボーカル、サブボーカル(ボンゴ)、キーボード、エレキギター、ベース、ドラムス、多人数コーラス / フラダンス18名

演奏終了後、ダンサーははける。
七福神は、センタードアから定位置につく。
3人はドアから、七福神のもとに帰ってくる。

恵比寿:
やあ、ご苦労さん。
光太郎くん、どうだった、大ローマ帝国は……。

光太郎:
助けていただいて、ありがとうございました。
2000年も時代が違うのに、今の日本とそっくりで、驚きました。

えりこ:
少子化といってたけど、ローマ帝国は、最後はどうなって滅んだんですか。

(恵比寿さんに聞いたのに、エビ天が割って入る)

エビ天:
シンプル、シンプル。じつに、シンプルなんだよ。
少子化で子供が少なくなる。
子供がいないということは、軍隊に入る人もいなくなるということ
それで外国人のゲルマン人をたーくさん雇って、軍隊は外人部隊にした。
ローマはね、その雇ったゲルマン人に、滅ぼされたのさ。
めでたし、めでたし。

えりこ:
エビ天さん、少し、おかしいわよ。滅んでいくのが、どうしてそんなに嬉しいの?
……ローマには豊かな中で、心の貧しさが広がっていたような気がする。
私が日本で感じていた、うっすらとした不安が、ローマ時代にもあったなんて……。

光太郎:
日本の小中学生の6人に1人が、貧困家庭の子――。
豊かな日本の中で、声に挙げることができない貧困があり、
見えにくい貧困のすぐ隣で、豊かな人が共存している。
自分が大人になったら、どっちに転ぶのだろう――。

えりこ:
子供のときから、それを感じていたら、結婚したくないわよね。
光太郎さん、本当に幸せを感じられる日本を、一緒に作れたらいいわね。

 

演奏  テレへ
   ―― サブリナ・ラフリン

【編成】ボーカル、サブボーカル、エレキギター、キーボード、ベース、ボンゴ、コンガ、ドラムス / フラダンス8名

演奏終了後、ダンサーははける。

3人、七福神のもとで

光太郎:
恵比寿さん、日本は少子化対策として、
外国からの移民を受け入れるという方法が考えられていますよね。

恵比寿:
えりこさん、そっち、そこ、そこの升目を見てごらん。

(恵比寿に指示されたえりこが、舞台の升目を探す仕草でやや上手に)

えりこ:
国会で過半数を占めた移民系議員が議案提出、
国名を日本から「ホンジャマカ共和国」に変更する案が可決される。
120マス戻る。

光太郎:
えっ。日本の国名が、ホンジャマカ共和国に変わるんですか?
移民が多すぎると、日本ではなくなってしまうのか……!

(光太郎、たまらず、升目を確かめるように、上手にいく。
必死に、升目を読んでいる)

光太郎:
引きこもりの数が、全国で500万人を越える。32マス戻る。

糖尿病患者、ついに成人男性の半数を占める。26マス戻る。

痴呆症が増え、高齢者の5割を越える。18マス戻る。

LGBTの数が若者の3割を越える。25マス戻る。
恵比寿さん、ダメですよ、この人生ゲーム。
どこに止まっても、こんな升目ばかりで、本当にゲームオーバー寸前だ。

(えりこ、床の升目を、じろじろ見てまわる)

えりこ:
本当だわ。こんな人生ゲーム、
どんな神様がサイコロを振っても、勝ち目はない。

恵比寿:
そうなんだ。それで、君たちを呼んだのだが……。

エビ天:
いや、ゲームというのは、こういうもの。仕方ないんだよ。
これまでの人類の歴史が、それを物語っているじゃないの。
発展しては滅び、滅んではまた新たに始まり……。

光太郎:
(遮るように)
エビ天さん。君は、何か、悪さをしているのか!

エビ天:
そ、そ、そんなことないよ。ボクは、何も、していない。
(後ずさりしながら、上手のほうに走って逃げていく)

光太郎とえりこが後を追って上手にはける。
七福神はそのまま、その場に残る。

 

奏 ハバネラ(サキソフォンアンサンブル)
   ―― ジョルジュ・ビゼー 作曲

【編成】ソプラノサックス1名、アルトサックス2名、テナーサックス1名、バリトンサックス1名、トロンボーン2名

演奏終了後、奏者ははける。

七福神がいる。
しきりに話し合っている。やや大きめの紙を持っている。

光太郎とえりこが上手から戻ってくる。

恵比寿:
ああ、戻ったか。

光太郎:
エビ天さんは脚が速いですね。たちまち、見失いました。

恵比寿:
それが、な。これなんじゃ。
(紙を広げて)
「少子化で研究者不足。原発の廃炉ができなくなる。
使用済み原発はコンクリートで原発全体を覆うだけにする。
250マス戻る」

えりこ:
なんですか、それは。恵比寿エビ天さんの書きかけの升目なんじゃ。
どうにもエビ天さんが書く升目は、こういうものばかりだったんだよ。
ひどい升目は、どうやらエビ天さんが書き続けたらしい……。

光太郎:
そんな。どんなことでも、書いて升目に置いたら、
悪い事も、その通りになってしまうなんて……。

恵比寿:
実際、いいことだけ書いて並べても、人生ゲームにならんのじゃ。
私達だって、いろいろ書いて頑張ったんだ。

えりこ:
頑張った?

恵比寿:
なあ、みんな。書いたのを、また見せてくれ。
(といって、1人ずつ、七福神のところを歩き、紙を受け取る)

大黒天さん
柿の木に500個、柿がなる。
(みんな、おーっといって拍手をする)

弁財天さん
桃の木に、美味しい桃が500個、実をつける。
(おーっ、と言ってみんなが拍手)

毘沙門天さん
(間をおいて)……なにかいいことがある
(おーっ とみんなが拍手)

寿老人
お正月を無事に迎えられる  (おーっ と拍手)
福禄寿
税理士試験に合格する (おーっ と拍手)
布袋尊
安産できる (おーっ と拍手)

えりこ:
すごく、いい升目を作ってきてくださったんですね。

恵比寿:
ほめてくれて、ありがとう。
みんな、いいことばかりの升目なんだが、時代に合わないというか、
いくら柿の木に500個の実がついても、いまじゃ誰もとらない。
時代が、変わってしまったんだ。

光太郎:
何を書けば、ゲームが終る前にここを切り抜けられるか、ですよね……。

えりこ:
もし、いいことでも、はずれたことを書いたら、終ってしまうのね。

光太郎:
ああ、緊張する。どうしたら、日本のみんなが幸せになっていくか……。
意外に難しい。

えりこ:
そうだ。2つめの上がりに近づいている国もあるんでしょ。
そこを見てきて、それを参考に書けばいいじゃない。
恵比寿さん、いいわよね。(と振り返る)
上がりに近い国を見せてください。

恵比寿:
上がりに近い国、か……。
(七福神のみんなと目配せして相談)

七福神:
それがいいだろう。

恵比寿:
このドアなんだがな。
(1枚のドアへ案内する)

暗転

 

演奏 テンション
   ―― 押尾コータロー 作曲

【編成】アコースティック・ギター 2名

次回は、3月5日アップ予定です。