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「使命と覚悟 法人税法と駆け抜けた1年 ――税理士試験を受験して――」 なお




税理士を目指して勉強をしているボーイングチームのなおちゃん、たかこちゃん、さやねちゃんが8月9日、10日に税理士試験を受験しました

 

 まだ見ぬ誰かを思い、駆け抜けた、1年間。
 その集大成のニ時間は、夏の夜空に美しい花を開かせる花火のように、私の心に大切な時間(とき)として刻まれました。
 たかこちゃんとさやねちゃん、私の3人は、『ボーイングチーム』と呼ばれ、なのはなファミリーで税理士の資格取得を目指して勉強をしています。
 私たちは8月9日と10日に、今年の税理士試験の受験をしました。たかこちゃんと私は法人税法を、さやねちゃんは、法人税法と国税徴収法の2科目を受けました。
 税理士の資格を取得するためには、会計科目2科目と税法に関する科目3科目(9科目ある中から選択する)の合わせて5科目に合格する必要があります。たかこちゃんと私は、今年受験した法人税法が5科目目、つまり最後の1科目になります。さやねちゃんは、昨年2科目合格し、今年の科目が3科目目と4科目目になります。
 5科目目の受験ということで、今年の受験は私にとって大きな節目でした。ボーイングチームとして簿記1級の勉強をはじめたときは、税理士試験の5科目目を受験するこの日を想像することが難しかったです。もちろん、税理士になるために勉強をする、という気持ちはありました。けれど、そこに向かう道のりがどんな景色なのか、どんな楽しさ、どんな険しさが待っているのか、どれくらいの長さなのか、それは未知でした。

 ■心の真ん中に

 目の前にある小さなハードルを越えながら、1日1日積み重ねてきました。簿記1級を受け、税理士の科目試験を受け、今年に至りました。その年月は、長いと言えば長いです。けれど、その長さは、私の気持ちをゆっくりと確実に熟成させてくれました。勉強をし、みんなと一緒に日々の作業をし、コンサートを作り、少しずつ前に進んで行くなかで、自分の使命として税理士の道を進む、という覚悟を決めることができました。
(税理士になることで、誰かの希望となる道を切り開き、誰もが安心して生きることができる関係を広げていく。まだ見ぬ誰かのために、自分を最大限生かして生きていく)
 5科目目の法人税法の受験に向けて勉強をしたこの1年は、私は、この気持ちを常に心の真ん中に置いて、勉強をしていました。弱気になることがなかったわけではありません。理論暗記に不安を覚えたり、覚えるべき計算パターンの多さに追いつかなくなったり、合格できなかったら、と結果を恐れる気持ちが出たとき、いつもなんのために学んでいるのか、という原点を、確かめました。その原点があったから、気持ちを立て直すことができました。
 私が気持ちを切らすことなく勉強を続け、無事に本試験の日を迎えることができたのは、〝誰かのために〟という思いがあったからです。
「人は自分の欲のためには頑張れない。自分のためだったら、自分が諦めればそれで済むことだから。でも、人のためにという思いがあったら、絶対に投げ出すことはできない。どんなに大変なことでも頑張れる」
 お父さんとお母さんがこう話してくれたことがあります。私は、勉強を続けてきて、本当にその通りだと思いました。資格を取って自分が自立して働くのに有利になったらいい、というだけの動機では、ここまでこれなかったと思います。
 今年の法人税法の勉強は、決して平坦な道ではなかったけれど、ずっと楽しかったです。その楽しさは、自分の求める生き方につながる勉強だから、感じられた楽しさです。誰かのためにつながると思えるから、乗り越えていくことを楽しめました。充実した1年でした。今年の受験は遠くにある大きな夢に向かう途中経過です。私はこの途中経過の1年を誇りに思います。

 ■出会いの秋

 私は、昨年の9月から法人税法の勉強をはじめました。
 法人税法は、ボリュームが多い科目です。そして、単純なパターン暗記だけではなく、理解が求められる部分が大きいと思います。そのことから、最後の1科目は法人税法を受験すると決めたとき、私は身構える気持ちがありました。でも、大原の通信講座で水上先生に出会い、その気持ちは変わりました。
「税法11科目のなかで一番ボリュームが多く難易度が高い法人税に合格するために一番大事なのは、毎回の講義を理解し、その毎回の講義で累積していく情報をキープすることです」
 水上先生は言いました。法人税法は『継続は力なり』というのが一番しっくりくる科目です。
「では、継続するのはどうしたらいいか。法人税を頑張っていこうと思った暁には、法人税法を楽しんでいただきたい。楽しいと勉強をする、勉強をすると解る。解ると楽しい。それが正の連鎖。楽しくないとなかなか正の連鎖に行かないです。楽しいというのは、ゲラゲラ笑うギャグ満載というのではありません。楽しいということの根っこにあるのは、解るということ。内容が解るということ。逆説的に言うと、解らないと楽しくない。私は、講義をやるに当たって、なるべくわかりやすい講義を伝えようと日々考えています。解れば楽しくなってくるという正の連鎖につながるということを考えている。ついてきていただいて、一緒に法人税の勉強を始めましょう」
 水上先生と出会った(初めて講義を聞いた)ときの言葉です。私は、先生のこの言葉で、法人税法に一歩を踏み出すことができました。理解と楽しさがミルフィーユのように重なり、少しずつ積み上がっていくことをイメージしました。

 ■自分のなかに

 勉強は、暗記です。お父さんはいつもこう教えてくれます。だから、理解といっても、最初から全てを深く理解する必要はなく、初めて学ぶ私がそんな風に理解をすることは現実的にも無理です。
 私が求めていた理解とは、法人税法の心、プリンシプルを知ることでした。ただ機械的に、呪文のように詰め込む暗記ではなくて、その規定が誰のためにあるものなのか、どんな正義を通そうとしているのか、それを知りながら、学ぶことが、私にとっての理解です。水上先生の授業ならきっとそれができる、先生の講義で勉強したい、私はそう思いました。
 8月の半ばにお父さんとお母さんに相談して、9月から水上先生の講義で法人税法を勉強することが決まりました。
 9月から10月はコンスタントに勉強をすることができました。約3時間の講義が週に2回、テストは基本的に1か月に1回です。思っていた通り、いや、思っていた以上に、水上先生の授業がわかりやすかったです。先生は、初めて学ぶ私のなかにもすっと入ってくる言葉で、シンプルに、かつ法人税法が何をしたいのかということを説明してくださいました。
 交際費、寄付金、受取配当、租税公課、減価償却……。計算の基本項目が、先生の言葉で、(なるほど!)と小さな納得、小さな気付きと共に私のなかに入ってきます。
 
 ■考え方の根本

 例えば、同じ損金不算入額を計算する交際費と寄付金でも、根っこの考え方は違います。交際費は基本的に損金となるものですが、税金払うくらいなら飲んで使ってしまえ、というような使い方を防ぐため、限度が儲けられています。一方寄付金は、基本的に損金となりません。払うことによる反対給付(見返り)がないからです。けれど、会社にとって寄付金は、その経営を円滑に行うために必要なこともあると考えられるから、一定額までは損金にできるようにしよう、ということで限度が設けられています。
 また、寄付金を分類するときも、ただテキストに載っている例示をそういうものだから、と丸暗記しようとしても、私は間違えてしまうことが多かったです。でも、水上先生の説明を聞いてからは、寄付金の基本的な問題で分類に迷うことはなくなりました。それは、考え方の根本を教えてもらったからです。
 規定には、原則の処理の他、例外の処理があるものが多いです。そこに、私は法人税法の人情を感じました。原則の決まりにあてはめたら適用できないような場合にも、実質が考慮されて適用できるように法律は作られています。先生がその説明をしてくれると、いつもお父さんが話してくれる、『善意の人のための法律』という言葉が思い出されました。なにもかもを条文にきっちりと当てはめるのではなくて、実質的に公平であること、それが正義なのだと思いました。その実質主義が、善意の人を守ることになります。
 これらはほんの一例に過ぎないのですが、水上先生の授業には、毎回このような小さな理解、小さな気付きがありました。『ボリュームが多くて難しい』法人税法から、『ボリュームが多くて難しいけれど楽しい(Interesting)』法人税法へと変わっていきました。問題を解くのも、理論を暗記するのも、楽しかったです。
 その楽しさは、本試験までずっと続いた気持ちです。覚えることに苦戦をしても、講義を聴いて新しいことを知れることが嬉しかったです。私にとっての法人税法は、心があり、意志がある生き物でした。水上先生に教えてもらう法人税法は、生き生きと私の目の前にありました。私は、彼(私の法人税法のイメージは男性です。ちなみに相続税法は女性、消費税法は男性)は何を考えているのかを理解すると、愛情が深まります。水上先生の教えてくださる法人税法に出会えたことが、私は幸せだと感じました。大好きだな、面白いな、もっと理解したいなと思いながら勉強を続けることができました。
 なのはなの秋から冬は、ウィンターコンサート一色になります。私も、11月から12月はみんなと一緒にコンサートの準備に集中して取り組みました。受験勉強とコンサートで表現することはまったく別のことをしているようで、深くつながっています。コンサートで演じると、私は勉強に向かう正しい気持ちが作られていきます。

2016年ウィンターコンサートで、なおちゃんが演じた忠雄。
ボーイングチームの3人はそれぞれが、
役者、ダンス、舞台美術、照明などで活躍しコンサートを支えました。

 

 ■仕込みの冬

 2016年のウィンターコンサートで、私は忠雄という役を演じました。
 忠雄は、父親への依存があり、親を越えられていませんでした。周りの評価をいつも気にして生きていました。劣等感が強くて、心は隙だらけでした。その忠雄は、誇り高く真面目に生きる人たちとの出会い、そして新しい地球を作ろうという志をもった仲間を見つけたことで、自分も一生懸命、真面目に働き、仲間と共に地球を新しく作っていくと決意を固めます。
 人のためになにかしたい、きちんと生きたいという気持ちを、誰もが心の底に持っているのだと思いました。そして、自分の間違いに気づけたのならば、人はいつだってやり直し、よく生きることができるのだと思いました。
 忠雄は私であり、忠雄が出会った仲間はなのはなの家族でした。私は忠雄の人生に、自分を重ねました。なのはなのみんなに受け入れてもらい、なのはなでゼロから新しい人生を生きはじめた私は忠雄そのものでした。

 

 

 ■税理士という道を

 私は、税理士という手段を通して、人のために惜しみなく尽くし、人の利益になるように生きていくことで、自分を支えてくれる人に返せるのだと思いました。みんなに助けてもらって前向きに生きられるようになった私は、これから出会う人のために生きていく、そのために税理士という道を私は歩いてく、そう強く思いました。
 コンサートが大成功に終わり、年末を迎えました。
 年末年始は、約2か月分の遅れを取り戻すために、勉強の時間をもらいました。紅白歌合戦やお正月遊びは、みんなと楽しむ時間と、勉強を優先する時間とメリハリをつけて参加しました。
 はじめは、年末年始の準備をするなかで勉強をすることで、みんなの空気を乱してしまわないか、と思いました。でも、そうではありませんでした。お父さんとお母さんは、はっきりと、今は勉強に特化すべきだと言ってくれました。なのはなの1人として、いま自分がなにをすべきなのか、それをはっきりとさせないと間違ってしまうと思いました。自分のための勉強ではないからこそ、責任を持って、きちんと勉強をしなければいけません。勉強をしていても、みんなの空気と、自分の空気が変わることはないのです。自分の役割をしっかりと果たし、そして、みんなと楽しむときは思い切り楽しもうと思いました。お父さんお母さん、みんなが応援してくれているのを感じました。
 1月から、応用テキストに入りました。1月、2月は、一番ハードな時期でした。
 
 ■今に集中する

 年末の2か月分を一気に視聴したので、復習をする時間があまりなく、インプットがしっかりとできませんでした。そこにきて1月からの新しい項目は、1回の講義のボリュームと難易度が高くなります。消化しきれないまま次々と新しい項目がやってきてしまい、焦りが出てきました。
 私は、忘れることが怖かったです。
(9月から12月までの基礎テキストのことを、どんどん忘れていく。せっかくコツコツと復習していたのに、すべてが無駄になる)
 そんな風に思いました。今のことに集中できませんでした。ちらちらと後ろを振り返りながらする勉強では、いくら3時間講義を聞いても、身にはなりません。二兎を追う者は一兎をも得ず、です。復習と新しい項目のインプットと、その時期にどちらもバランス良くやりたいと思うのは、欲張りでした。
 振り返らずに、目の前の講義に集中すること。今学んでいることに集中する。
 必ず問題集の個別問題を一度は問題を解き、できるという状態にすること。
 理論の暗記も、1回完璧にする。
 忘れることを恐れない。
 また復習できるときは必ずある、そのときにいくらだって取り戻すことができる、そう信じて『今』に気持ちを100パーセント向けようと思いました。そのために、自分なりの勉強のルールを作りました。
 今を一番大事にする、そう割り切ってからは、また新しい項目を学ぶことの楽しさが戻ってきました。組織再編、解散税制、外国税制……講義を聞きながら、要旨を覚え、複数の立場からの見方や、状況の分析をしていきました。
 一口に計算項目と言っても、パターンを覚えてひたすら反復することで定着するものもあれば、暗記+理解という要素が大きいものもあります。年明けからの項目は、後者のものが多かったです。取引が抽象的で、イメージがつけにくいと感じました。だからこそ、ひとつひとつの取引の基本的な考え方を理解していかないと、記憶に残りません。講義での先生のお話を聞き、メモをし、テキストを読み返し、問題と答えと取引イメージをセットにして、インプットしていきました。それから、難しいと思いすぎないようにしました。まずは、テキストに書かれていることを覚え、基本の問題を解けるようになったらそれで充分だと思いました。

 ■地道に

 私は、春が来て、模擬試験がはじまることを考えました。そのときまでに、どれだけ仕込みができるか、それが冬の勝負です。仕込みの時期は、派手派手しいことはなにもありません。ただ、地道に1回1回の講義をすすめていき、毎回の講義の宿題となる理論を暗記していきました。時間の都合上で、個別問題だけを解いて総合問題は捨てました。もしも講義や宿題以外で時間があれば、基礎の復習をしました。
 月に1回のテストでは、現在進行形で学んでいる項目はきっちりとる、以前の項目で忘れてしまったものは諦める、理論はテスト範囲は完璧に覚えて書く、と決めて向かいました。4月のフルマラソンに向けて毎日走りながら、勉強と生活のリズムを作っていきました。
 どのくらいの力がついているのか、あるいはいないのか。それがわかるのは、何か月か先のことです。不安の先取りをせずに、いまできることを積み上げていこうと思いました。そして、3月。私は運命の人に出会います。
 運命の人、それは〝奈央〟という役でした。
 井原市での『ボランティア交流会』の演奏で、私はあゆちゃんと一緒にMCをさせてもらいました。なのはなの演奏を、1人の女性のモノローグでつなぐという、新しい形のステージでした。

井原市で行なわれたボランティア交流会では、なおちゃんが演じる“奈央”のモノローグで曲をつなぎ1つの物語として伝えました。

 

 ■運命の人

 お父さんが書いてくれた台本には、登場する女性の名前が〝奈央〟となっていました。その女性は、10代の頃から、なんのために勉強をするのか、なんのための頑張るのか、なんのために生きるのか、ということに疑問を持ち、その答えを知りたいと強く求めていました。しかし、その気持ちを誰にも理解されず、疑問を持つ自分は競争から逃げた臆病者、ただの病気の女の子、と決めつけられてしまいます。誰にも理解されない孤独という病気、それは暗い宇宙の中をさまようようなものです。心が冷え切り、自分は誰にも愛される資格がない、誰にも必要とされない、もう消えてしまおうか、というところまで追い込まれてしまいます。
 しかし、命の火が消えそうになったとき、彼女は答えに出会います。自分を自由に解き放つための勉強、生きることに迷ったとき、暗闇に光が差すように知識が正しい方向へ導いてくれる、そのための勉強なのだ、と。
 彼女は、税理士になるための勉強をはじめます。
「新らしい社会の仕組みを広げ、人間味のある生き方を広げていきたい、そのために力を尽くしたい。そのためだったら、どんなに税理士になる勉強が大変でも、諦めない。自分と同じように苦しむ人を1人でも減らすために、力を尽くす」
 そうはっきりと決意を口にします。〝奈央〟は、使命感と、大きな希望を胸に、しっかりと前を向いて歩き出します。
 〝奈央〟は私自身であり、私の一歩先を歩く人でした。私が生きるべき私でした。そして、苦しく生きてきてなのはなに来たみんなが〝奈央〟なのだと思いました。自立して生きていくことに、どこか弱気や、不安、自信のなさが顔を見せる私は、そのMCのセリフのなかに、あるべき答えを見つけました。
 私は、なのはなのみんなのなかで、多くのお客さんの前で、税理士になる道で、力を尽くす、この夏最後の1科目をとりたいと思う、と言いました。そのセリフは、臆病な私に大きな一歩を踏み出させてくれました。
(できないかもしれない、という逃げ道や甘える気持ちを捨てる。私は税理士になる、絶対に諦めない。まだ見ぬ誰かのために、その一本の道を胸を張ってまっすぐに進む)
 私は、セリフを言うことで、その覚悟を固めることができました。
 その役はそこにあるべくしてあって、ずっと私を待っていてくれました。そのとき出会うべくして出会った運命の役だと思います。私は、その出会いに感謝しています。お父さんが書いてくれたセリフは、私の気持ちであり、なのはなのみんなの気持ちであり、今の社会で生きにくさを感じている多くの人の気持ちです。私はその役に、勇気と、誇りをもらいました。私が生きるべき道を、演じることができて、私は春からの勉強に、迷いがなくなりました。

 

勉強の合間に練習を重ね、フルマラソンを完走しました。

 
 ■一瞬の夏

 加茂郷フルマラソンを走った翌日から、実力公開模擬試験がはじまりました。いよいよ、模擬試験のはじまりです。そこから本試験までは直前対策期、と呼ばれ、全14回の模擬試験があります。5月末まで模擬試験と講義が交互に行われました。6回の実判が終わるとしばらく講義のみが続き、6月後半から再び模擬試験が続きます。
 本試験に向けて、ギアチェンジをする時期です。私は、4月までに間に合わなかった基礎期の復習をこの時期に集中的にすすめました。理想としては、このときまでの計算の基礎を固めておけたら良かったのですが、間に合いませんでした。お父さんに相談したときに、5月末までに基礎を固めるのでも充分間に合うと言ってもらったので、安心して勉強することができました。
 私は、どちらかというと、理論の方が好きで、計算を苦手としていました。テストを受けても、それは点数としてはっきりと表れていました。だから、計算は難しいことは抜きにして、基礎の問題集を仕上げることだけを考えました。理論は、模擬試験の出題範囲を精度高く覚えることと、応用理論の講義をしっかりと自分の中に入れることを大事にしました。
 模擬試験は、自分を知ることができる鏡でした。基礎の項目であっても、出題の形式や、資料の与えられ方が様々で、知識が曖昧であったり、ただのパターンの丸暗記だけの知識だと太刀打ちができませんでした。けれど、できない、ということも嬉しかったです。本試験はどういうものなのか、自分に必要なことはなにか、ということが1回1回具体的に知ることができました。次はどんな問題に出会えるのだろう、と思う気持ち、それはどんな自分を知ることができるのだろう、と毎回楽しみな気持ちで模試を受けました。
 直前期から講義を担当してくださった馬場先生の言葉が、気持ちを支えてくれました。結果(点数)に一喜一憂しないこと、自分を客観的に知るための模試であること、復習したところをしっかりと押さえることが一番大事、先生はそう言いました。
 同時並行で進んでいた講義でも、理論の二十二条の深さを知りました。法人税法の中で最も重要で、深い理論が、二十二条です。その二十二条の森は、ときとして迷うこともあったけれど、知れば知るほど法人税法の魅力を感じました。法人税法の心をしっかりと理解して正しい道を選んでいけるようになりたいと思いました。
 実判の時期は、とても密度が濃かったです。初夏から、夏本番へ。私はギアをトップに入れて、走り出していきました。最後のスパートをかけた、一瞬の夏です。 

 ■突破していきたい

 公開模擬試験を過ぎ、直前予想問題という最後の模試も終わり、試験までカウントダウンに入りました。自分の力が、まだまだ足りないと思いました。でも、お父さんが、本試験の日が実力のピークになり、その日に合格レベルに達すれば良いのだと話してくれました。
 どこまでできるのかわからないけれど、自分の限界を突破していきたい、と思いました。崖っぷちに立つ覚悟で、最後までやり遂げていこうと思いました。
 本試験が近づくにつれて、本番はたった一度きりであり、その2時間に自分のすべてを表現するのだという気持ちが高まりました。そのたった一度のために、1年間がありました。8月9日の午前9時から11時までの2時間のために積み上げてきた時間、思いがあり、たくさんの人の支えがありました。なのはなのなかで勉強をした1年間、山も谷もあったその日々を、私は自信にしました。なのはなで勉強したからこそ、私はここまでたどり着くことができました。
 私は法人税法が大好きになりました。新しい世界をたくさん見ることができました。自分が学ぶことが、誰かのためにつながると思って勉強をすることができました。なのはなのみんなが作業に向かう姿勢に、いつも気持ちを正してもらいました。
(支えてくれている人のために、自分が出会うべき誰かのために、自分の役割を果たし、試験の2時間に、自分の思いをすべて表現します)
 私は、神様に向かって、誓いました。
 本試験は、香川県高松市にあるサンメッセ香川という会場で、受験をしました。たかこちゃんと私は日曜日の夕方に出発し、さやねちゃんは火曜日に合流しました。
 出発と台風の到来が重なっていました。お父さんとお母さんが、台風が来るからといって焦ったり、不安になったりするのは正しくないということを話してくれました。
 逆境であればあるほどに、臆病にならずに逃げずに正面から向かっていくこと、喜んで困難な道に進み、乗り越えていくこと、そこに自分だけのかけがえのないドラマが生まれるのです。例えうまくいかなかったとしても、取り返しがつかないということはないのです。どんな結果になっても、なにを失っても構わない、ゼロからはじめる、そんな潔い覚悟を持って生きることが、奇麗です。

 

試験へ出発

 

 ■勇気と正しさ

 たかこちゃんと私は、お父さんとお母さんの言葉に勇気と正しさを教えてもらい、なのはなを出発しました。台風が来ても、試験にどんな問題が出ても、私はひるまずに勇気を持って正面から向かっていこうと思いました。
 そして、私たちを送り出したあと、お父さんとお母さんが古吉野の玄関にムクゲの花を生けてくれました。ムクゲは茶花で『旅立ちの安全と無事を願う花』だとお母さんが教えてくれました。
 私は、税理士試験のことを思うとき、必ずムクゲの花を思い出すだろうと思います。ムクゲの花を見れば、このときのお父さんとお母さんの気持ちを思い出すだろうと思います。私にとって、ムクゲの花は特別な存在になりました。
 お父さんとお母さんが、私が試験に向かうことを心から応援してくれていると感じたとき、試験だけではなく、お父さんとお母さんはいつもそんな風に私の未来を考えて、良い生き方をしていけるように、という気持ちでいてくれるのだと思いました。私は、どんなことがあっても、大丈夫だと思いました。試験だって、私はなにも怖いことはないと思いました。
 高松では、ホテルの部屋や図書館で勉強をして過ごしました。理論を唱えていると、表紙の色が褪せ、使い込んだ理論のテキストに愛しい気持ちになりました。毎日毎日、ページを繰って暗記をしてきた理論たちが、そこにはつまっています。覚えられずに苦戦した日々、頭の中に条文が浮かび、流れるように暗唱できたときの、嬉しい気持ち、そのことを思うと、ずっしりとした重みのある理論テキストは、私の大切な戦友だと思いました。ホテルの部屋で1つひとつの理論の最後のチェックをして、覚えるべきことは覚えた、と自分自身に言いました。
 計算は、1回分だけ持ってきた模擬試験、実判の4回目を丁寧に解き直しました。それから計算の総まとめの問題集を1回ずつ解きました。難しいことはする必要は何もなくて、自分が繰り返し解いてきたことを、そのまま本試験でもすればいいと思いました。
 試験の前日、高松に到着したさやねちゃんが、みんなからのメッセージを伝えてくれました。試験の時間にみんなで念を送るからね、とあゆみちゃんが言ってくれたそうです。河上さんが、手作りのトマトの甘納豆をボーイングチーム3人にといって、渡してくれました。さやねちゃんの笑顔と、みんなの気持ちを受け取って、私はなのはなの空気に包まれて安心をしました。

 

試験が行なわれたサンメッセ香川

 

 ■誇りを持って向き合う

 その夜、お父さんとお母さんからメールが届きました。
「受かるか受からないか、それは本当に重要なことではありません。試験の時間に、試験のことだけを考えて向き合えるか、それだけです。勇気をもって勉強をする姿を見せてくれてありがとう。1年間頑張ってきた3人に深く感謝をしています。精一杯自分の人生の1コマに向かっていることを尊敬しています。なのはなファミリー全員が3人を応援しています。力を出し切ってくれることを祈っています」
 ありがとうという感謝、それは私がお父さんとお母さん、みんなに伝えたい言葉でした。1年間頑張れたのは、みんながいたからです。
 私は、誇りを持って、試験に向き合おうと思いました。試験の2時間、私は法人税法と一体となり、法人税法のことだけを考えて問題に向かい、自分の精一杯を尽くす、それが全てです。
 台風は過ぎ去り、気持ちよく晴れた8月9日。私は法人税法の試験を受けました。
 ホテルで、卵と納豆の朝食をいただきました。私は緊張をしていました。珍しく食欲が出ないと感じました。それでもいい、と思いました。出発前のお父さんとお母さんのお話を思い出し、どんな問題が待ち受けていても、正面突破です。緊張もなにもかも、自分だけのドラマを作ってくれる大切なものです。
 ホテルのレストランで、たかこちゃんとさやねちゃんの姿を見つけました。声はかけなかったけれど、そっと互いの健闘を祈っているように感じました。
 私は簿記部Tシャツを着て、河上さんの甘納豆とお母さんがくださったお土産のメープルの飴を大事に鞄のポケットに入れました。8時半に会場に到着しました。法人税法は大展示場という一番広いホールで試験がありました。

 

 ■自分の果たす役割

 たかこちゃんの前が私の席で、少し受験番号が若いさやねちゃんは、同じ列の前の方に座っていました。朝食のときに感じた迫るような緊張はなくなっていて、不思議なほど、落ち着いていました。怖さはありません。試験を受けられて、幸せだなと思いました。こんな気持ちで迎えた本試験は初めてかもしれません。試験に向かう日々のなかでは、自分の果たす役割があるという思いが強くあり、常に肩に力が入っていました。それは悪い力みではなくて、そう思うことで自分を支えていた所があると思います。でも、本試験の席に着いたとき、その肩の力がすっと抜けて、ふわりと包まれるような心地よさがありました。自然と、笑顔になっていました。
 机の上に、万年筆、蛍光ペン、赤のボールペン、予備の青のペン、ホッチキス、電卓を並べました。受験票は、左の角に置いてあります。静かに、少し速く打つ心臓の音を聞きました。ゆっくりと、深呼吸をします。後ろの席に座るたかこちゃんの存在を、感じました。さやねちゃんの後ろ姿を見ました。
 8時45分に、解答用紙と、問題用紙が配られました。解答用紙の印字済みの文字から、理論は青色申告の問題と、外国税額控除やタックスヘイブンなどの外国関連の問題だとわかりました。計算は、解答用紙の形式から読み取れることは、少なかったです。普通の総合問題とは違うな、個別問題かな、と思いました。解答用紙も、問題のページ数も割と少なめでした。
 私はCランク(出題可能性が低め)の理論であった青色申告とタックスヘイブンは、理論テキストの条文だけしか覚えていなくて、踏み込んだことが聞かれたら答えられないなと思いました。覚えていることは確実に書こう、と思いました。
 頭の中で理論テキストのページを思い浮かべ、そこにある文章を考えながら、試験開始の時間を待ちました。

 ■思いを表現する2時間

 午前9時。私の思いを表現する2時間がはじまりました。
 いつも通り、理論から解きはじめます。解答欄が狭くて、自分が書こうと思ったことを書くと、ぎゅうぎゅうになってしまいました。反対に、たった1行しか書くことがなくて、自分の知識ではそれだけしか書けない、余白が多くなってしまうという問題もありました。青色申告、外国関連ともに、テキストに載っていて覚えた条文で書けるものと、そうではないものがはっきりとしていました。迷うことはない問題でした。覚えていることは書ける、覚えていないことは書けない、そのどちらかでした。でも、自分がわからない問題も、その規定や、法人税法の原則の考えに照らして、自分の言葉で作文をしました。わからない問題でも、どうしようという焦りはありませんでした。書けないなりに、自分の知識の範囲内で答えを表現しました。
 計算は、工事の請負、貸倒引当金、減価償却、交際費や役員給与、繰延資産など、基本的な項目の別表四の処理を問う問題でした。なかには、未学習の項目もあるけれど、解いていて感じたのは、丁寧に資料を読み、基礎、一歩踏み込んだ応用、といったところをどれだけきっちり処理できるかを問われているということです。複雑な資料ではないけれど、整理しながら、きちんと考えて判断し、かつスピーディに処理していく必要がありました。わからない問題もありました。力不足も感じました。時間ギリギリに終わるくらいだったので、最後の問は読み飛ばしてしまって部分的にしか答えを書けませんでした。でも、誠実でまっすぐな問いかけで、私は解いていて素敵な問題だなと思いました。
 私は、2時間の間、静かに落ち着いた気持ちで解くことが出来ました。丁寧に問いかけてくれることに対して、丁寧に答えました。わかることも、自分の力の範囲を超えたことも、ベストを尽くして、答えを埋めていきました。
 サンメッセ香川の会場にいて、私は法人税法の神様に向かって気持ちを誓うように、一文字一文字を解答用紙に綴りました。自分のすぐ近くに、神様がいて、私にはその光が見えるようでした。神様と2人きりで、私は自分の気持ちを誓うように、問題に向き合いました。神様を感じるということが、本当にあるんだと思いました。
 誰かと競争するのではなく、結果を求めるのでもなく、ただ、今の自分にできる精一杯を尽くす。生きるというのは、自分のなかにいる、自分のすぐ側にいる神様に向かって誠実にあるということなのだと思います。試験を受けていて、私はそのことをはっきりと感じました。私は、その2時間、自分に誠実に、誇りを持っていられました。そう思える2時間を経験できたことこそが、私にとって何よりも大切なことだと思います。
「終わりです」
 試験官の方が、終了の時間を告げました。私は、万年筆を置きました。悔いはなかったです。胸のあたりに、あたたかさがありました。幸せな2時間だった、と思いました。
 
 ■走り続けて

 法人税法の試験が終わり、たかこちゃんとさやねちゃんと3人で、会場の入口で写真を撮りました。税理士試験会場と書かれた看板の前で、解き終えたばかりの問題用紙と受験票を手に、3人で写真に映りました。
 翌日、国税徴収法の試験があるさやねちゃんとは、そこで握手をして別れました。さやねちゃんは、凜として綺麗な表情でした。さやねちゃんの右手を、ぎゅっと強く握りました。
(さやねちゃんが、明日の試験も力を出し切って良い2時間になりますように)
 願いを込めました。
 法人税法とともに駆け抜けた1年が、この日一区切りとなりました。
 とても充実していました。大好きな法人税法があって、大好きな先生がいて、勉強して行く先の夢が確かにある、こんなに幸せな勉強はありません。勉強をしながら、日記を書きながら、日々の作業をしながら、コンサートを作りながら、たくさんの大切な気持ちを積み重ねることができました。鮮やかでくっきりとした色がいくつも散りばめられた、1年間でした。
 この1年間で、税理士となる意味や、どう生きていくのか、ということに深く向き合い、覚悟を決めることがてきました。結果がどうかよりも、覚悟が決まったこと、それが私にとってとても大きな意味を持つと思います。
 誰かの希望となるために、道を切り開く。優しい社会を作るために力を尽くします。
 そのために、知識も経験も、心の幅もつけていきます。私は、これから先も自分の使命に誇りを持っていきます。
 支えてくださったお父さん、お母さん、家族のみんな、村田先生、水上先生と馬場先生をはじめとする大原の先生方、たかこちゃんとさやねちゃん、ありがとうございました。私は夢に向かって、これからも走り続けていきます。

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